巨樹・御神木の宝庫を巡る信仰の旅へ
area:伊豆半島
東京でカメラマンアシスタントとして活動している萩原哲平さんは、自身のライフワークとして全国を巡り、「日本の巨樹・御神木」を撮り続けている。大学卒業制作のテーマに選んだことがきっかけとなり、巨樹の世界に魅了され5年が経った。
「日本にある数々の自然信仰の中で、直感で選んだのが樹木でした。各地を訪れるにつれて巨樹とそれにまつわる伝承にも惹かれ、今も作品作りを続けています」
全国に点在する巨樹は、都市部より離れた集落などの周りに残っていることが多いため、クルマでの移動が基本だ。愛車「NISSAN テラノ」を走らせ、巨樹という点のスポットを目指しながら、道中のその土地らしい風景や空気を楽しんでいる。
「巨樹に会いに行くという自分の大好きなこと。それに伴う移動は決して手段ではなく、もう一つの好きなことでもあります。好きなことをしながら、好きなことをしに行く。そんな贅沢な時間が私にとってのクルマ旅です」
今回萩原さんが提案してくれたのは、伊豆半島の巨樹を巡るクルマ旅。東京からのアクセスが良いこともあって、学生の頃から15回以上も訪れているというお気に入りの場所だ。海・山・川・滝・草原と豊かな風土が育まれる伊豆には、国を代表するような巨樹も多く生育していて“これほど贅沢なエリアはなかなかない”のだという。今も残る数々の名木は、古代から人々の信仰の対象とされ、地域の人により大切に守られてきた証でもある。
“伊豆半島は巨樹の宝庫とも言えるほど名木が揃っているので、他にも様々なルートが組めると思います。また、巨樹はそこに住む誰よりも長くその地にありますから、地域の方々から樹にまつわるエピソードを聞いて、交流する醍醐味も味わってほしいですね”
静岡県沼津市
01.河内の大スギ
クルマで近くまでアクセスできる県内最大級の大スギ
三島市街地より車で1時間ほどで訪れることができる静岡県最大級のスギ。樹高は40メートル近く、目を見張るほどの迫力があります。この規模の巨樹にしてはアクセスが比較的容易なこともおすすめできる理由のひとつ。20分ほど林道を走ることになりますが、舗装路ですし、クルマを路肩に停めてから10分もかからずに目の前まで行くことができます。周囲は植樹された人工の針葉樹林になっており、より大スギの風格が際立つ空間となっています。私も何度も訪れている本当に素晴らしい1本です。
- 住所
- 〒410-0232 静岡県沼津市西浦河内
静岡県伊豆市
02.西伊豆スカイライン
富士山や駿河湾を望む絶景ドライブへ
河内の大スギから西伊豆の海岸線へと降りていく際に通過する全長10kmほどの絶景ライン。標高が高いので富士山や駿河湾などが一望でき、とにかく景観が美しい。日中でも十分見応えのある景色ですが、日の出、日没前後はさらに美しい風景が広がるのでおすすめです。熱海などの東伊豆エリアに比べて観光客の数が控えめな西〜南伊豆エリアは交通量が少なく、いつ走っても雄大な伊豆の景色を独占することができます。
- 住所
- 静岡県伊豆市
静岡県賀茂郡
03.白鳥神社のビャクシン
推定樹齢約800年、躍動感溢れる御神木
西伊豆スカイラインから堂ヶ島へと降り、海沿いを1時間程度車を走らせると吉田という集落があります。目当ては、吉田の小さな神社に鎮座するビャクシン。ビャクシンとは盆栽でもよく用いられる樹の種類で、樹皮が剥がれ白骨化した「シャリ」と呼ばれる部分が多く確認できます。このビャクシンの見どころは凄まじいまでの枝振り。幹のうねり具合と毛細血管のように張り巡らされた枝は他では見られません。
- 住所
- 〒415-0533 静岡県賀茂郡南伊豆町妻良1328
静岡県賀茂郡
04.稲取細野高原
360度のパノラマが広がる広大なススキ野原
再び海岸線を進み、河津桜で有名な河津町も越え、一気に東伊豆町まで移動します。港町である稲取には秋にススキ祭りで賑わう稲取細野高原があります。高原全体がハイキングコースになっていて、かの有名な箱根仙石原のおよそ7倍もの広さがあるほか、山間部の高原ということもあり起伏に富む独特の景色を楽しむことができます。
- 住所
- 〒413-0411 静岡県賀茂郡東伊豆町稲取
- URL
- e-izu.org/inatorihosonokougen
静岡県賀茂郡
05.シラヌタの大杉/オバケ杉
神秘的な二本の巨樹が息づく異世界へ
一度山を降り、一つ隣の万三郎岳へと移動します。この2本は多少離れてはいますが、同じ道沿いにあります。海岸線から山へ入り、途中別荘地を通り過ぎながら林道を30分ほど走ると、駐車スペースがあります。そこからシラヌタの大杉までは歩いて15分ほどです。
鬱蒼とした森の中に聳える姿は少し不気味な印象を受けますが、一方で苔むした樹皮はどこか神秘的でもあります。また、「連理」と呼ばれる枝が他の枝や幹と繋がる現象が2箇所も見られるとっても貴重なスギです。
オバケ杉はシラヌタの大杉から林道を徒歩で進む必要があります。片道30分程度かかりますが、ここまで来たら会っておきたい1本です。樹形はおおよそ普通の杉に近いものの、枝の数が物凄いです。その大半は枯れてしまっていてオバケと言われるのもわかるような気がしました。しかし、周囲には陽が差し込むことも多く、神々しさすら感じる佇まいです。こんな空間に一人でいると時間の流れがゆっくりになったような、不思議な感覚に陥ってしまいます。
- 住所
- シラヌタの大杉:〒413-0303 静岡県賀茂郡東伊豆町
- オバケ杉:〒413-0303 静岡県賀茂郡東伊豆町片瀬
萩原哲平 (はぎわらてっぺい)
東京都青梅市出身。日本大学芸術学部写真学科卒業。在学中より日本全国の巨樹・御神木をモチーフとし、各地に伝わる信仰や伝承をテーマに制作を続けている。NISSAN ラシーンを経て、現在の相棒はNISSAN テラノ。
IG:@hagi__photo
photo by Teppei Hagiwara