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NEWNORMALのバンライフ #12 バンキャンプというコミュニティをゆっくり育てていきたい
2023.08.04

NEWNORMALのバンライフ #12 バンキャンプというコミュニティをゆっくり育てていきたい
by 小潤平

10年のキャンプ歴を誇り、独立したタイミングでバンライフをスタートさせた小濱潤平さん。仕事で必要な荷物を遠くまで運べ、仮眠もできるというメリットから始めたが、いまやイベントを手掛ける「VANCAMP JAPAN」の代表を務め、このシーンを牽引するひとりとなった。バンキャンプコミュニティを育てていく楽しさ、そしてその未来について聞いた。

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コロナで仕事がなくなり、バンライフへ

バンライフは、2018年から始めました。前職は、アパレルブランドでインテリアデザインの部署に在籍していたんですけど、独立してブライダル関連の仕事を始めた際に、イメージ通りの家具や什器類を会場に持ち込むための大きなクルマが必要になったのがきっかけでした。夜の移動も、クルマの中で仮眠が取れるのもいいなと思って、三菱自動車のデリカの商用のバンを買ったんです。ワーゲンとかも候補にあったんですけど、国産車のほうが面白そうだし、ハイエースやキャラバンほど人と被らないからいいかなって。

バンキャンプは、クルマだから辺鄙な場所でも気軽に行けるのが大きなメリット。キャンプに凝り出すと荷物がどんどん増えていくけど、バンキャンプの場合、荷物を増やすと寝る場所がなくなっちゃうということもあって、できるだけギアを厳選するから準備にも時間がかからない。ご飯にしても、凝ったキャンプ飯は作らない。夜はカップ麺を食べればいいし、何なら、食べてから行くことも。現地に着いたら、いかに何もしないかを追求してますね(笑)。

僕のバンライフの転機は、やっぱりコロナでした。転職して、順調に売り上げが伸びていた中、ウェディング業界も他と同じように、完全にストップしてしまいました。注文がゼロになって、どうしようかと…。でも、自分ではどうしようもできない。それで、バンライフに舵を切ったんです。仕事がなくなって持てた時間で、お金をかけずに遊ぶバンライフを発信し始めたら、じわじわ興味を持ってくれる人が増えていきました。

そんな中で、インスタでつながっていた人が「よかったら、丹沢湖の近くの土地を好きに使ってください」ってDMをくれたんです。そこはインフラ面で、子連れの家族がキャンプするのはちょっと難しい場所だったんですけど、バンであればトイレがなくても別にいいし、ご飯もペットボトルの水を沸かして、カップラーメンを食べればいい。それで完結しちゃうんで、僕が興味を持っていたバンライフの人達に「一緒にやりませんか?」って、インスタでDMを送ったら、4台集まってくれました。

なぜ、自分だけでやらず、人に声を掛けたのかというと、2019年にあった「つくばVAN泊」への憧れからきていたのかもしれません。子どもができたばかりのタイミングで参加できなかった心残りが僕にはずっとある。だからこそ、自分たちでイベントを作れたらいいなと思ったんです。全員、その時がはじめましての人達で、オフ会みたいなものだったんですけど、めちゃくちゃ盛り上がったんですよ。内装とかせっかく作ったからには、誰かに見てほしいじゃないですか。「傍から見たらめちゃくちゃボロいクルマだよね」なんて笑いながら話したりして、すごく楽しかったですね。

4台から始まったバンキャンプコミュニティ

夜は、焚火をしながらバンライフについて深い話になりました。僕はクルマを探しながら、“バンライフ”というワードを知って、その時はまだ日本では知られていないカルチャーを見つけた喜びがあったんですけど、海外では哲学的な概念も入ってきます。日本では車中泊とバンライフには明確な線引きがないよねって話を、その夜もしたんですよね。今はこうしてバンで集まってキャンプしてるけど、これって何なんだろうって。普段はそれぞれ自宅があって、ベッドで寝て、週末だけクルマで旅をしている。それで、“バンライファ―”と呼ぶのは、めちゃくちゃ違和感があるというのがみんなの共通認識でした。じゃあ、何なんの? と話していったら、もともとベースにキャンプがあってのバンライフだから、“バンキャンプ”でいいんじゃないかと。前からある言葉だけど、誰が造ったかは重要じゃなく、その言葉をお借りして普及させていこうという方向に話が進んでいったんです。

photo:丹沢湖

それから2、3カ月後というスピード感で、DIY講座をしたり、車中泊を見てもらうイベントを開催しました。そこから発展したのが、インスタレーション型のイベント「VANCAPM IS MY JAM」です。第1回は、2022年5月に秩父で開催して、バンライフを始めたい人、すでにクルマは買っていてカスタムの参考にしたいという人が集まってくれました。たまたまインスタで見つけたと、キャンピングカーでいろんな場所に行っている年配のご夫婦もいたんですよ。キャンピングカーって、バンより全然広いし便利で、ほぼ家じゃないですか。なのに、あえて不便なバンを見に来ることが面白かったですね。けっしてアクセスがいいとはいえない場所に、遠くから16台もの展示車両が集まってくれたことは自信になりましたし、自分たちが目指すところが見えてきたイベントになりました。


photo:VANCAPM IS MY JAM 第1回目

コミュニティーのメンバーたちは、めちゃくちゃクセが強いです(笑)。普通のキャンプに飽き足らず、バンをカスタムして泊まるくらいですから。でも、誰もセカセカしていないし、ふんわりとした空気を醸し出した人が集まってきますね。イベントでアテンドをしなくても、知らない人同士で距離が自然と縮まっていくし、すごくアットホームですよ。

自分でバンキャンプを楽しむだけでなく、なんでイベントまで開催するのかといったら、単純に楽しいから。それに尽きますね。お金儲けじゃないから、しがらみも少ないですし、できることをただやって遊んでいるという感覚が強いです。これからも、あまり頑張らないように、のんびりやっていこうかなと。

photo:VANCAPM IS MY JAM 第4回目@岐阜

2024年にバンライフシーンが転換期を迎える

コロナ禍でキャンプを始めてみたけど、飽きちゃった人っていっぱいいると思うんですよ。キャンプ場の方と話をしていても、爆発的に増えた分は減ってて、コロナ禍以前より少し増えたくらいで落ち着いてきていると。バンキャンプは、すでに飽きちゃった方々にとっても、次なる選択肢になり得るはず。まだマイノリティの楽しみ方ですけど、メインストリームになるといいなと思っています。

今年は何かしら、大きな結果を残したいですね。最初に4台集まった2021年の段階で、24年頃に“バンライフ”という言葉が日本中で認知されるんじゃないかという話をしていたんです。実際、キャンピングカー専門のお店がワンナイト仕様のクルマを作ったり、カーリース専門の部門がバンライフ用の開発を始めたり。広告も打たれ始めてきて、どんどん仕掛けてきているなと感じてるので、僕らも来年に向けて、今年はイベントの規模を大きくしたり、日本のバンライフコミュニティで、いっこ頭の抜けた位置にいけるようになりたいですね。人が集まるほど、人と人、企業さん同士、新しい繋がりがどんどん生まれていくので。

さっき、バンライフの活動はお金儲けではないから楽しいと言ったんですけど、手伝ってくれるスタッフに最低限の交通費を出すしかできてないのが現状です。やはり、報酬という形で収益を還元できるようになれば、みんなのモチベーションも高まるし、持続可能な形の活動になるんじゃないかなとも考えています。

小濱潤平 (おばまじゅんぺい)
合同会社ブロロロ 代表。アウトドア体験に新しい価値を生みだすコミュニティ「VANCAMP JAPAN」の責任者として、DIYで作り上げたバンとのキャンプスタイルや、開催イベントの様子などを積極的に発信中。

HP:vancampjapan.com
Instagram:@shonan_vanlife

Photo by Masayuki Nakaya / Interview by Ryo Muramatsu / Text by Sakiko Koizumi