拠点を複数持つことは心のセーフティネットになる
セカンドホームが持てるサブスクリプションサービス〈SANU 2nd Home〉を、現社CEOの福島弦さんとともに創業した本間貴裕さんは、ファウンダー兼ブランドディレクターという立場だ。
福島の自然豊かな場所で育ち、現在は北海道と東京を10日おきに行き来する2拠点生活を送る。
「冬になればスキーをして、夏になれば川で釣りをして…みたいな子どもで、今でもサーフィンをしたり、自然の中で体を動かしたい。だからといって、完全に地方に移住して、東京での人との出会いやエンターテインメントを捨てるのももったいない。都会と自然、それぞれに良さがあると思うんです」
都市の利便性や刺激、地方の自然豊かな環境。どちらも諦めたくないという、ある意味よくばりな発想から生まれたのが、〈SANU 2nd Home〉だ。
拠点を一点に集中させないメリットは他にもある。
「都市での生活は、良くも悪くも評価の連続だと思うんです。会社で働いていても、SNSをやっても、街を歩いていても。でも、人間常に上手くいくわけではなくて、自分が今いるところがツラくなることもあるじゃないですか。そんな時、好きな人と山や海でいい時間を過ごせたら、また戻ろうと思えるかもしれない。つまり、拠点を複数持つということは、精神的なセーフティネットになり得て、自らの存在意義を分散させることを意味すると考えています。僕自身、仕事尽くめだった時代、海に入ってサーフィンをしていれば、波はウェルカムしてくれるし、誰も僕のことなんて見ていません。会社や世間の評価とは違う、2つの世界が持てたことですごく安心できましたし、居心地がよかったんです」
体そのものを移動させることで、オンとオフの切り替えを自ずとスムーズにさせる。一方で、日常を自然の中に持ち込むことで、クリエイティビティが増すこともあるそうだ。
「料理をするにしても、採ってきた山菜や地元の食材で作るのと、コンビニのごはんを食べるのとでは違うでしょう。仕事をするにしても、森を眺めながらパソコンに向かえば、仕事の質が上がって、書く企画書の内容も変わってきます。そうやってクリエイティビティを加速させてくれるのが、環境が持つ魔法だと思うんですよね。そこに泊まった人がニュートラルに戻り、自分を発露させられるような空間デザインを意識しています」
サブスクプランでは入会金はなく、月額5.5万円。一方で、主力サービスと膨らみそうな勢いのある共同所有プランでは、毎年12泊〜/400万円台〜。現在は北軽井沢や山中湖など、全国に28拠点、162室に宿泊可能。2025年には北から南まで全国30拠点以上に拡大する予定だ。
彼らの場所選びのポイントは3つある。
「1つはある程度の行きやすさ。なんだかんだ移動が3時間を超えるとしんどくなるので、首都圏から3時間以内の場所をメインに探しています。2つ目は、地域が元気なこと。自然の中にポツンとある一軒家は、慣れない人にとっては怖いと思うんです。なので、クルマで5分行けばおいしいカフェがあるなど、寂しさを感じない場所であることも条件です。最後の3つ目が、その土地の魅力です。森が豊かだとか、湧き水が出るだとか、何でもいいんですが、惹かれるものがあるかどうかを大切にしています」
今回、北軽井沢2ndにある〈SANU CABIN MOSS(モス)〉のリリースに合わせて、編集長の村松ファミリーが滞在。長野県の御代田町に暮らし、それ以前は東京と長野を行き来する2拠点生活を送っていた。従来の別荘のあり方を知る彼にとって、会員制セカンドホームサービスの魅力とはどんなところにあると感じたのか。
「SANUのキャビンがあるような自然の中に別荘を持つと、夏は草取り、秋は落ち葉拾い、冬は雪かきなど、季節労働が待っていて、場合によって通年で薪割りなどもあります。仮に週末を利用した短い滞在時間だとすると、多くを“家を快適に維持していくための作業”にとられてしまうんです。もちろん、それが楽しみでもあり、喜びにもなるんですけど、仮にSANUのように管理された別荘でその時間を別のことにフル活用できるなら、過ごし方に拡がりが生まれます。それと、本来の別荘は一つの場所を深めて味わっていくことが魅力ですけど、SANUはその選択もできて、さらに各地のキャビンを転々と楽しむこともできる。これはとても羨ましいですし、贅沢ですよね」
自然との共生を目指した建物作りを
SANU 2nd Home〉では“Live with nature./自然と共に生きる。”をコンセプトに掲げ、環境に配慮した建物作りを行っている。たとえば“高床式”建築。歴史の時間で習った、あれだ。通常ならば、土を掘ってコンクリートを流し込み基礎を作る。その場合、伐採してしまった自然が戻ってくるのに何年も時間がかかってしまう。そうではなく、地球へのダメージを抑え、自然が回復する時間を短縮させるため、8本の杭だけで建物を支える方式を採用している。
「我々は、さまざまな植物や生き物がいる森の中にお邪魔しているので、最小限で作りたい」そう話すのは、SANUの設計を担う建築チーム〈ADX〉代表の安齋好太郎さんだ。建物を浮かすことで風が流れ、生態系が回復するのにも役立つ。
2024年の夏に北軽井沢でデビューした新型キャビンの〈SANU CABIN MOSS(モス)〉。建設業の人手不足が加速する将来を見据えた自然立地建築のフラッグシップモデルだ。
断熱を施した外壁からユニットバスまで、一貫して工場でプロダクト化し、現場で組み立てることで、通常3ヵ月程度かかる工期が約2週間に短縮できる。結果的に、CO2削減にもかなり効くのだという。使用する木材は、国産材100%で構成され、木の使用率は39%。平均的な木造建築の8%と比べると飛躍的な数字だ。日本の木は熟しすぎて、CO2を吸収しなくってしまっている。森が循環するためには、伐期に切って使うことが、森の循環を促すことになるため、木を積極的に使っているのだ。
さらには設計図と同時に“解体図”を作っているという。その意図について安齋さんはこう語る。
「バブル期に建てられたコンクリートの大きな建物が使われなくなり、ツタが絡まって…という光景が日本各地で見られます。財務の問題などいろんな事情があるにせよ、僕らは無責任に建物を打ち捨てるようなことはしたくありません。しかし、そもそも永久に朽ちない建物はありませんから、どう解体したらいいのか示すものを残しておくんです」
木を再利用できるように、木は木、鉄は鉄とパーツごとにばらせるように作る。そうすれば、薄く切って合板にリサイクルすることもでき、その合板も使い終わったらチップにして、ベレットストーブの燃料となる。
「やはり、環境にいい建築というのは、これをしたら正解という青い鳥みたいなものはなくて、できることを1個1個、堅実に積み重ねていくしかないんです」
滞在を機に環境問題を自分事として捉えてほしい
「何も建築自慢をしたいわけではない」という。そこまでこだわる核にあるのは、環境問題を“自分事にしてほしい”という想い。本間さんの言葉には、このインタビューを通して知りたかった答えのひとつが含まれていた。
別荘を所有することとも違う、複数箇所に気軽に訪れるセカンドホームを持つこと。そうすることで、僕らの暮らしに何がもたらされるのか。
「遠く離れた、行ったことのない島の潮位が上っていると聞いても、大変そうだなとは思うけど、正直、よくわからない話で終わってしまいますよね? では、そこにセカンドホームがあったらどうだろうって想像するんです。きっと感じ方が変わると思うんですよ。自分の家の木が枯れていたら、なんでだろうって気になりますよね。ばあちゃんちの庭にペットボトルが落ちていたら拾うじゃないですか。日本全国にセカンドホームが広がった先に、日本全体をばあちゃんちのように感じられるかもしれません。さらに世界へと広がったら、アラスカ、パタゴニア、トルコの沿岸、ヨーロッパアルプス…世界各地で起こっている環境問題が自分事として考えられる人が増えて、状況が変わるんです。僕らはそんなことを起こそうという、大きな夢を掲げているんです」
滞在することで自然を好きになり、ダメージを与えない生き方を考えていくきっかけになればと願うのだ。
「まだ、我々人類は、具体的にこう生活をすれば、これ以上地球を壊さずに、森を回復できるという正解までは辿り着いていません。セカンドホームでの小さな体験を、ファーストホームに持ち帰ってもらったり、次に家を建てる時に参考にしてもらったり、自然にリスペクトを持って継続的に共生する暮らしをみなさんにも探ってもらえたら、そんな風に思っています」
SANU 2nd Home
『Live with nature./自然と共に生きる。』をブランドコンセプトとし、会員制のセカンドホームサービスで、日本中の海、山、湖にもう1つの家が持てる。
SANU IG:@sanu_2ndhome
SANU HP:2ndhome.sa-nu.com/
本間貴裕 (ほんまたかひろ)
1986年、福島県会津若松市生まれ。株式会社SANUファウンダー兼ブランドディレクター。福島県会津若松市出身。バックパッカーズジャパン元代表取締役で、日本橋兜町にあるホテル〈K5〉のプロデュースも。現在は北海道と東京で2拠点生活を送る。サーフィンとスノーボードがライフワーク。
IG:@hilo_homma
photo by arata funayama・SANU 2nd Home / edit by ryo muramatsu