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#02 車中泊は旅の時間が途切れない 船山改×船山潔
2025.03.10

#02 車中泊は旅の時間が途切れない 船山改×船山潔

アーティスト・船山改(アラタ)と、クライマー・船山潔(イサギ)。自然に生きるふたりのアウトドア体験を通して、地球で遊ぶこと・生きることの新しい視点をお届けする連載『NEW OUTDOOR JOURNEY』。

#02では、“クルマで旅すること”の魅力について改めて迫ってみたい。キャンピングカーにギアを詰め込み山へと向かう日々で、彼らは何を考え、何を見たのか。

「車中泊の最大の魅力は“旅が途切れないこと”」というが、その真意とは?

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厳冬期の北海道で触れた、ロードトリップの本質

––ふたりとも旅によく行ってるけど、キャンピングカーでのロードトリップは?

アラタ:そもそもクルマ移動がめちゃくちゃ多いですね。走行距離で言えば、年間3〜4万キロくらいは走ってます。イサギも5〜6万キロとかでしょ? クルマは1人になれる時間だし、変な気遣いもしなくていいし、何か気になったところに寄れるし、急ぎたかったら急げるし。自分でコントロールできるじゃないですか。

イサギ:ふたりでクルマで旅をするのは、案外はじめてかもしれないんですよね。キャンプしに行ったり、山に行ったりはしますけど、現地集合がほとんどで。

アラタ:でも、ふたりで旅をしてみて、違和感みたいなのはなかったです。イサギだけ運転するとか、そういうのもなかったし。ただ、料理はほとんどイサギだったかな。食材買って、クルマのキッチンで料理して。

イサギ:キャンピングカーはちょくちょく乗ってたんですよね。ヨセミテでクライミングトリップをしたときもキャンピングカーだったし。

アラタ:Moving Inn〉のクルマは、めちゃめちゃ最高でしたよ。ベッドがあるのもいいし、大きな収納もあるし、なんていうか、ストレスフリーでした。自分のクルマは後部座席もトランクもフラットにならないから寝られなくて。ちゃんと横になれるから快適でしたね。

旅から“区切り”を取り払ってくれる車中泊の魅力

––冬の北海道というのも、これまでにない旅先だったと思うけど。

アラタ:やっぱり、冬っていうのはデカいですよね。キャンピングカーで旅している人はいますけど、春から秋は環境が緩いじゃないですか。でも冬は、めっちゃ吹雪くし、そもそも寒いし、道は全部雪だし、旅そのものがハードっちゃハード。

イサギ:でも、北海道にはクルマでしか行けない景色がたくさんありますよね。キャンピングカーだから、そこにアクセスできるのはよかったですね。宿とか予定を気にすることもないし、行動の幅が圧倒的に広かった。

アラタ:全然街に降りなかったですね。コンビニに行くこともほとんどなくて。冬の北海道こそキャンピングカーかなって。

イサギ:キャンピングカーにスプリットボード *注1 とアイゼン *注2 を積んでる人もあんまりいないと思うけどね。

アラタ:なんか、ホテルとか泊まるの面倒くさくないですか。極論ですけど、やっぱり宿にいくと途切れてるかんじ。

旅行は好きなんですよ。でも、クルマに荷物を置いて、着替えだけ持って、綺麗な部屋でおいしいごはん食べて、酒飲んで、温かいところで寝て起きてって。それはそれで好きなんですけど、気持ちが区切られちゃうんです。でも、クルマはずっとつづけられる。

キャンプでも、毎日街に降りていたらたぶん嫌になる。冬だとなおさらですよね。宿にいったらもっと快適なのはわかっているけど、キャンピングカーだからこその、ずっとつづいていて途切れない感じが、果てしなく旅ができる気持ちにさせるんです。

それに、予定を決めて、毎日どこの街でどこの宿でってなると、それは旅というより、スケジュールで区切られた日々になっちゃう。明日天気がいいからどこいこうとか、行き当たりばったりなのが旅なんじゃないかなって思うんです。

無駄っちゃ無駄かもしれないですけど、ロードトリップはそれが楽しいというか。

*注1 スプリットボード:雪上を歩行できるバックカントリー向けスノーボード
*注2 アイゼン:凍結した雪道用の滑り止めスパイク

––仲間が合流するっていうのも、ふたりの旅らしいね

イサギ:羅臼岳は、地元のスノーボード仲間のイクミ、そのあとの十勝岳は札幌のバートンの副店長のカズくんとその友達が来てくれた。

アラタ:その友達は初めての人だったんですけど、連れてっていいって言われて、いいよって。で、一緒に十勝岳登った。

でも、その2人は僕らが山頂まで行くって聞いてなくて、クランポン *注3 を持ってこなかった。だから山頂までスノーシューで上がっていった(笑)。

イサギ:十勝方面は、僕らが行く前日に降った予報だったんですよ。

アラタ:今回もはずれたんですよ(笑)。

イサギ:下はいい雪だったじゃん。

アラタ:十勝岳の下の方は、スノーボードのクルーがよく撮影で使っている場所らしくて、いいかなとは思ったんです。でも、今回もやっぱり山頂まで行く感じで、結局硬かった。雪は降ったんですけど、風で雪がとんじゃってた。だから上は全部氷。

*注3 クランポン:別称アイゼン。氷雪上を滑らずに歩行するための金属製の登山用具

自然を観察する、ありのままを感じる、受け入れること

––ここもパウダーじゃなくて、固かったんだ。トラブルとかはなかった?

イサギ:登っているときにアイゼンが外れて、結構な急斜面で動けなくなって。アラタに足貸してもらってステップにして。結局、山頂は行ったけど、降っていった先の釜に雪が全部吹き溜まっていて、そこをみんな結構滑って遊んでました。

アラタ:帰りは帰りでエグくて。イサギが行けるっていうからついていったら岩だらけで。もう岩と雪まじりで、コケたら100%やられる。ミスったら落ちるやつ。途中で降りられない鹿みたいになってて。

イサギ:板はギタッギタになったね。結局、1番ハードな思い出が残るんですよ。楽しかっただけだと、そんなに覚えてなくて。

アラタ:みんな、ただゲレンデのスノーボードが好きなんじゃなくて、山が好きで、山を歩くのも好きだし、何か観察するのが好きだし。だからああいう場所に行っても、嫌というよりは、何かしら楽しめるんですよね。寒かったら寒いって言いながらでも歩くし、怖かったら怖くても歩くし。

イサギ:僕らにとっての悪いっていうのは、雪崩の危険があったり、本当に危ないコンディションだったりとかで。だから十勝岳もよかったね、って感じなんですよ。

証言:
ここで、アラタとイサギとは旧知の仲の中城一晃(カズ)のコメントを。かつては長野に暮らし(現在は北海道在住)、十勝岳の山行に合流したカズはふたりと行動をともにして、何を感じたのだろうか。

ふたりからは「タイミング合えば一緒に滑ろう」って誘われて。ちょうど空いてたから、富良野で合流しました。天気もいいし、朝日を見に山に上がろうってことになったんです。

滑りは、イサギの滑りだなって、懐かしくなりました。北海道の人のパウダーを滑る感じとは違って、本州のいろんな雪のコンディションで磨かれたターンだなと。コンディションがそんなによくなくても、ターンが綺麗で力強い。アラタは、すごく楽しんでましたね。撮影のときも、イサギに指示出して、阿吽の呼吸でやってる感じで。登っている途中のモルゲンロートがすごく綺麗で、そんなのも楽しんで撮ってたと思います。

あの双子、ちょっと変ですよね。分野は違えど、交わるところがあって、なんだかんだ仲いいし、お互いリスペクトするところもあって。ふたりだと、ブレーキをかけないじゃないですか。僕らが危ないと思うようなとこも平気で突っ込んで行くから、やっぱりすごいなって思いましたよ。

(#03につづく)

船山改 (フナヤマ アラタ)
ファッションデザイナーからキャリアをスタートし、ペインティング、グラフィックデザイン、アートワーク、ロゴ制作、写真撮影までこなすアーティスト。企業ブランディングでは、企画から制作、アウトプットまで手がける。
「最近はスノーボードのグラフィックを描いたり、パッケージのデザインをしたり。僕の仕事は、自分で手を動かすものもありますが、いろんな人が関わって完成するものが多いですね。なので、大きなくくりでいうとデザイナーですね。デザインのなかでも、パターンや紋様が得意で、そのベースを書く〈図案師〉でもあると思っています」。
IG:@arata_funayama

船山潔 (フナヤマ イサギ)
10代からロッククライミングをはじめ、ヨーロッパのフィールドを転戦。2021年より、ガイドツアーサービス〈Gen〉を主宰。バックカントリースノーボード、サーフィン、ハイキングなど、アウトドアアクティビティ全般を楽しむ。
「ライフワークは、Climb & Ride。バックカントリーをはじめたのは23歳の頃で、冬山を登攀してアルパインエリアでのスノーボード滑走ですね。浅間山の麓で育ったので、山での生活が日常で、〈Gen〉では長野周辺の自然体験を案内しています。ほかには、日本各地の自然や文化をリサーチしています。旅というより、生活や風習を勉強している感じですね」。
IG:@isagi.f.de_le_rue

Photo by Arata Funaya & Isagi Funayama Edit&Text by Kousuke Kobayashi Produce by Ryo Muramatsu Cooperation by Moving Inn