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旅人のためのキャンピングカー〈Moving Inn〉
羅臼岳、そして十勝岳の山行レポートをつうじて、彼らが旅に求めるもの、彼らの視点が見えてきたのではないだろうか。そんなふたりの旅を支えてきたのは、まぎれもなく1台のクルマだった。今回は、5日間の旅の相棒となった〈Moving Inn〉のキャンピングカーに焦点を当ててみようと思う。
––アラタが〈Moving Inn〉と関わりがあったことが、北海道の旅のきっかけのひとつだったと思うけど、自分たちのクルマではなく、いわゆるキャンピングカーを選んだ理由は?
アラタ:少し遡るのですが、〈Moving Inn〉のプロデューサーのケイシさんと話していたときに、「一番の贅沢は、物質的なものや金銭的なものではなくて、できなかったこと、思っていたものができるようになること」と言っていたのがとても印象的で、記憶に残っていました。
ケイシさんが関わっている〈Moving Inn〉のキャンピングカーは、きっとその考えのひとつなのだと思ったんです。キャンピングカーなら、どんな土地でも暮らすように旅ができます。これはたしかにお金がいくらあっても手に入れることはできない旅ですよね。
その話を聞いて、旅は目的地を決めてゴールに辿り着くことよりも、アプローチそのものを楽しむことなのかも、と思ったんです。で、〈Moving Inn〉のキャンピングカーで旅をしてみたいと企画を立てました。
イサギ:実際、僕らの旅はめちゃくちゃ移動します。1ヶ所に留まることができないのかもしれませんが、移動しつづけることで、未知との出合いがあったり、旅のその先を見ることもできるのかなと思っていて。
日常的に移動距離が長いという習性がありつつ、アラタが言うように、キャンピングカーなら、自分たちのペースで寄り道をしながら旅ができるのではという、これまでの旅とは違う、どこか期待のようなものがありました。
実際、だからこそ見られたものがありました。流氷はそのひとつで、いつどこに接岸するかはわからなくて、海岸線を走りながら追いかけたのはいい思い出になりました。
やはり、転々としながら自分たちの旅路をつくっていくというのは、バントリップならでは。そして、北海道の広大さにくわえて、僕らにとっての未知の土地だったことも、今回の旅先としてよかったんだと思います。
––連載第2回の話で、「旅が途切れないのがいい」と言っていたけれど、一方で、食事を作ったり、寝泊まりしたりとか、面倒に感じることは多いよね?
イサギ:それは、むしろすごく快適というか、ストレスフリーでしたね。今回レンタルしたクルマは「HIACE LEAD」という車両で、トヨタハイエースをキャンパー仕様にしたものでした。ベットはキングサイズ級で、ローチェアに、ローテーブル、40Lの冷蔵庫まであって、車内には100Vの電源とサブバッテリーも付いていた。日常的に車中泊はしますが、キャンピングカーってこんなに便利なんだと思いました。
いわゆる車中泊って、居住空間の狭さとか設備の使いにくさとかに耐えるイメージですが、そういうのはまったくなくて、いくらでも旅をつづけられそうなくらいでした。
アラタ:移動だけでなく、〈Moving Inn〉の車両は生活もセットにして考えられている感じですよね。あらためて振り返ってみると、これまでは、先へ行くことと寝ることに意識が行きすぎてしまっていたのかなと気づきました。ふだん、自分のクルマで長野から福岡に行ったりとか、長距離移動することも少なくないのですが、道中はただの移動だったんですよ。
僕らにとってクルマはなくてはならない移動手段ではありますが、今回の旅で言えば、キャンピングカーは無限の可能性があると思えるくらい理想的なツールでした。仕様も寝泊まりに特化しているし、車内で料理すること、食べることが当たり前にできる作りになっている。細かいところなんですけど、こういうクルマだから辿り着けた景色だったり、過ごせた旅の日々というのは、たしかにありました。しかも寝泊まりは快適だから、ずっとコンディションのいい状態を保つことができました。ずっと旅を、つづけられるんじゃないかと思ったくらいです。
僕は、旅はストイックなものなのかなと思っていたんですが、快適な環境を捨てる必要はないのだと、そういう気づきもありました。
––つまり、キャンピングカーという存在は知ってはいたけれど、実際に寝泊まりして、移動をして、その機能性を理解したって感じかな。〈Moving Inn〉は、十勝に拠点があって、最終日はそこで過ごしたんだよね?
イサギ:そうです。キャンピングカーサイトとサウナ付きのキャビンなどが複数ある宿泊施設で、僕らは『HOTORI』というキャビンを使わせてもらいました。
アラタ:キッチンがあって、お風呂もサウナもあります。でも、寝るのはあくまでクルマ。ダイニングはあるけれど、ベッドルームはなくて、ここでも車中泊なんですよね。そのコンセプトも、すごくいいなって思いました。
イサギ:ガラス張りの囲炉裏があって、雪の中にポツンと大きな木樽の浴槽があって、これまでのバンライフとのギャップも面白かったですね。旅の最後はちょっと贅沢してもいいかなという気分でした。
アラタ:十勝周辺は、北は大雪山国立公園、西は日高山脈、東は阿寒国立公園、南は太平洋に囲まれていて、様々な北海道の顔を見ることができます。観光地化されていない、ありのままの自然が広がる土地です。自然が好きな人は、リゾートに行くより絶対いいんじゃないですかね。
イサギ:『HOTORI』は、リビング、サウナ、お風呂、クルマがウッドデッキで繋がっていて、それぞれの移動は外を経由します。室内と屋外の境界線がほとんどない、みたいな。できるだけ外を感じていたい僕にとっては嬉しい空間でした。クルマで来たとはいえ、星が見え、木々の香りがして、自然の音が聞こえて、森の奥にいるんだと感じられる場所でした。
アラタ:でも、最後の最後でケンカするんですよ(笑)。これまでの旅と締めくくりのステイが台無しになるくらいの。
イサギ:そういうこともあったね〜。
アラタ:それも面白い話なんで、最終回に話しますね。
キャンプサイトの周りに境界線を描くように流れる小川の畔に設置されている『HOTORI』
バンライフを支えるアイテム
行き当たりばったりに思える彼らの旅だが、そのフレキシブルさを支えているのは綿密な事前の準備。コンディションの読めない山では、求められるギアを予測し、携行しているから。ゆえに、初見の山であっても山頂へと辿り着くことができたのだ。
バンライフにおいてもそう。これまでの経験だけでなく、北海道での旅を想定した道具を持ち込んでいたからこそ、快適に、スムーズに旅ができたのだろう。ということで、ふたりのおすすめアイテムを、それぞれ3つずつピックアップしてもらった。ぜひとも参考にしてみてほしい。
Arata’s item 1 ジェットボイル
燃焼効率を高めることで、少ない燃料で素早くお湯を沸かすことのできるバーナー・クッカーのセット。旅先では、水を確保することは簡単でも、お湯を得るのはとても難しい。キャンピングカーにはガスコンロがありますが、ジェットボイルがあればすぐにお湯を作れますし、効率も上がります。冬用のガスがあれば外でも山でも使えるので一石二鳥です。
商品名:Jetboil(ジェットボイル
Arata’s item 2 電池式フィルムカメラ/インスタントカメラ
撮影ではデジタルカメラを使用していますが、ふとした瞬間にフィルムカメラで撮った写真は、携帯にはない空気感と記憶を思い出させてくれます。オススメは電池式のフィルムカメラ。またはインスタントカメラ。僕は『KONIKA C35』をメインカメラとは別で持ち歩いています。難しい操作もなく、軽くて、ポケットに入るサイズなので毎日持ち歩いています。
商品名:KONIKA C35 / FUJIFILM TIARA ix EPION 1000 MRC
Arata’s item 3 手拭い
食器を拭いたり、汗を拭いたり、温泉で体を拭いたりなど、生活の中で何かを拭く場面はたくさんあります。薄い軽いので荷物も嵩張らないし、早く乾くのも選ぶ理由ですね。小物を包んでパッキングに使うこともあります。日本ならではの、シンプルでありながらいろいろな使い方のできる知恵の詰まった道具は好きですね。
商品名:手拭い(ヒアネス)
Isagi’s item 1 テムレス
透湿性と防水性を兼ね備えた素材を使用した万能グローブ。冬山でメインのグローブとして使っています。コスパ、保温性、防水性を考えたときに、このグローブを超えるものはないかもしれません。雪かきや冬の外での作業でも使えるので冬は肌身離さず持っています。
商品名:テムレス(ショーワグローブ)
Isagi’s item 2 調味料
塩、出汁、醤油、味噌。今回は、自炊を前提としたバントリップということもあり、ポーチサイズの調味料セットを持って行きました。常に準備しているものですが、とくに塩は大事で、行動食のおにぎり作りには欠かせません。鍋用の出汁と味噌があればどこでも米が食べれるので、こちらもバントリップには必需品です。
Isagi’s item 3 カセットコンロ
今回は〈Moving Inn〉のキャンピングカーに備品として用意されていましたが、個人的にオールシーズン、どこへ行くにもクルマに載せています。これがあればいつでも料理ができますし、、温かい飲み物を作ったり、冬の洗い物にも活用できます。バントリップには必需品であり、バンライフの生活レベルが向上するアイテムですね。
次回は、連載最終回。ロードトリップを経て、ふたりは何を感じ、何を見つけたのか。双子ゆえのシンクロ、そしてズレが生み出す(しょうもない)結末をお楽しみに。
(#04につづく)
船山改 (フナヤマ アラタ)
ファッションデザイナーからキャリアをスタートし、ペインティング、グラフィックデザイン、アートワーク、ロゴ制作、写真撮影までこなすアーティスト。企業ブランディングでは、企画から制作、アウトプットまで手がける。
「最近はスノーボードのグラフィックを描いたり、パッケージのデザインをしたり。僕の仕事は、自分で手を動かすものもありますが、いろんな人が関わって完成するものが多いですね。なので、大きなくくりでいうとデザイナーですね。デザインのなかでも、パターンや紋様が得意で、そのベースを書く〈図案師〉でもあると思っています」。
IG:@arata_funayama
船山潔 (フナヤマ イサギ)
10代からロッククライミングをはじめ、ヨーロッパのフィールドを転戦。2021年より、ガイドツアーサービス〈Gen〉を主宰。バックカントリースノーボード、サーフィン、ハイキングなど、アウトドアアクティビティ全般を楽しむ。
「ライフワークは、Climb & Ride。バックカントリーをはじめたのは23歳の頃で、冬山を登攀してアルパインエリアでのスノーボード滑走ですね。浅間山の麓で育ったので、山での生活が日常で、〈Gen〉では長野周辺の自然体験を案内しています。ほかには、日本各地の自然や文化をリサーチしています。旅というより、生活や風習を勉強している感じですね」。
IG:@isagi.f.de_le_rue
Photo by Arata Funaya & Isagi Funayama Edit&Text by Kousuke Kobayashi Produce by Ryo Muramatsu Cooperation by Moving Inn