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#08 雑誌をつくるのと同じ感覚で、トレイルもつくれる〈前編〉
2025.04.26

#08 雑誌をつくるのと同じ感覚で、トレイルもつくれる〈前編〉
by ルーカス・B.B.

noru journalがおくるPodcast番組『窓がうごく(仮)』では、旅すること、移動することが暮らしに根付いている人々をゲストに迎え、さまざまなお話を伺います。

今回ゲストにお招きしたのは、土地のユニークな自然や文化を見いだし、新たな価値を創造、発信しているトラベル・ライフスタイルメディア『PAPERSKY』編集長のルーカス・B.B.さんです。大学卒業後に来日してから30年以上、『PAPERSKY』や、パパ・ママ・キッズのためのメディア『mammoth』の立ち上げからイベントのプロデュースなど、さまざまな“編集”をしてきたキャリアの持ち主。ライフワークは、旅することと歩くこと。

世界中、そして日本中を飛び回りながら、現在は、東京のオフィスと静岡県の焼津市の自宅を行き来する二拠点生活をおくっています。そんな彼が新プロジェクトとして発表したのは『KATSUO TRAIL』という名の新しいトレイルルート。道を“編集”すること、その面白さやストーリーの紡ぎ方などを聞いていきます。

ここでは音声コンテンをまるッとテキスト化してお送りしていきます。

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ウォーキングプロジェクト『KATSUO TRAIL』の編み方

村松:さて、本日のゲストはPAPERSKY』編集長のルーカス・B.B.さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。

ルーカス・B.B.(以下 ルーカス):よろしくお願いします。

村松:普段、だいぶ年上なんですけど、ルーカスと呼んでいるので、今日も親しみを込めて、いつものようにルーカスと呼ばせていただきます。

ルーカス:(笑)

村松:まずはプロフィールを簡単に。 1971年、アメリカ・ボルティモア生まれ。サンフランシスコ育ち。12才で雑誌制作を始めてから現在まで、読者の視野を広げ、インスピレーションを与えるメディアを制作し続けている。1993年、カリフォルニア大学を卒業後、来日。1996年に日英バイリンガルのカルチャー誌『TOKION』を創刊。2002年にトラベル・ライフスタイル誌『PAPERSKY』を創刊。現在は拠点を静岡県の焼津市にも持ち、東京のオフィスと静岡の自宅を行き来しながら暮らしています。2002年ですからね。

ルーカス:はい。

村松:20年以上続いていますね『PAPERSKY』。

ルーカス:そうだね、もう23年ぐらいになるよね。長いよね。

村松:長い。

ルーカス:96年、その『TOKION』作ったのが。(編集者歴が)30年になっちゃう(笑)。長い。さっき言った、もうルーカスがずいぶん年上(笑)。

村松:すごいですね。今日は、普段は自分のオフィスで収録しているんですけど、

ルーカス:はい、畳の上だね。 今日。

村松:そう、『PAPERSKY』のオフィスにお邪魔して。ちょっと渋谷でありながら、昔ながらの古民家の中で、下には日本庭園もあったりして。そんなところで今日は収録していますけど、ここは寝泊まりもしてる?

ルーカス:そう! 東京にいるときは、この今、僕らの座っている畳の上で寝ています。

村松:なるほど。じゃあ、オフィス兼自宅を東京に残しながら本拠地は焼津?

ルーカス:そうですね。今、多分30%ぐらい焼津で、30%は東京で、30%は旅に出ている。残りの10%がちょっと月によるね。変わってくる感じですね。

村松:結構旅し続けていますよね、日常で。

ルーカス:僕、結構怖がり屋だから、そんな旅しそうでもないけど(笑)、なんか飛び回ってる感じがするね。

村松:拠点を静岡に移したこともひとつのきっかけになったと思うんですけど、前編では『KATSUO TRAIL』というプロジェクトについて話を聞いていけたらと思います。この春に開通する? した?


引用:KATSUO TRAIL

ルーカス:そうだね。このプロジェクトは誰かに頼んでいることじゃないから、自分で何回も何回も歩いたり、自転車の道と、歩く道とふたつの道を今つくってるところ。

村松:この『KATSUO TRAIL』、概要を説明しますと、静岡県の焼津を起点に静岡、藤枝、島田を経て、南アルプスの南端にある川根本町を結ぶ、総距離205km、獲得標高6,300mぐらいの周回ルートで、ルーカスが提案する新しいウォーキングプロジェクトとして開通するっていうことなんですけど。これそもそもどういう経緯で『KATSUO TRAIL』をつくろうって思ったんですか?

ルーカス:奥さんと結婚して20年以上。焼津の人で、ずっと前から行ったり来たりはしていんだけど、ちゃんと住むのはコロナになったタイミング。ちょうど奥さんのおばあちゃんが94歳で、3人で今は一緒に暮らしていて。一緒に住めばいいじゃないかと提案して、いいねという話になって、そこで生活が始まった感じ。だから、まあ(住み始めて)4年ぐらいになるかな。それで、せっかくこの焼津という場にいるから、何かこの場に対する生活と仕事がリンクができたらいいなと思っていて。 自分らしいことだったら歩くか、自転車に乗るか。振り返ってもそれしかやってないから。これまでも『PAPERSKY』の連載で「Old Japanese Highway」というプロジェクトで日本の街道を20年以上ずっと歩いたりしていて。 大学も自転車部で。「PAPERSKY ツール・ド・ニッポン」では日本のあちこちを自転車で旅してきたから、何か自分らしいことをやりたいと思ってた。それでこの焼津は静岡の真ん中のところで、山がいっぱいあるし、川もいっぱいあるし、自然がきれいだから。ここに良いトレイルつくれるんじゃないかなと思って。たまたま川根本町の方に取材があって、そこのトレイルをつくっている方に出会って、この話したら、「やろうやろう」みたいな話になったね。『PAPERSKY』のデザインをしている〈サーモンデザイン〉の伊藤さんも静岡にいて、彼も静岡に対する愛がすごく強くて、一緒にやらないかと誘って、ぜひぜひ!みたいなことで3人が揃って〈DO lab.(ドゥーラブ)〉という会社をつくった。

で、ドゥーはDOで“する”という英語の意味があって、日本語で読むと、“どう”。“道”のことで。“道をする”っていうコンセプトだね。道をすることはその道に沿って学ぶこととか、文化のこととか、食のこととか、建築のこととか。すべて含めるんじゃないかなと思って。それでトレイルを何回も何回も歩いて、何回も何回も自転車に乗って、やっと今、地図もできてきた。先週、GPXデータを公開したから『AllTrails』とか『Gaia』とか『Strava』とか、みんないろいろ使っているから、そのGPXデータをダウンロードして、自分の携帯とかタブレットとかに入れてルートが分かるように発表したところ。今、オープンになっていて、みんなが歩こう・自転車漕ごうと思ったらできる。あとは、PDFマップもついているので、全体像を見ることもできるようになった。

多分幅がものすごい広いと思う。この間は子どもを連れていって『KATSUO TRAIL』を使ったワークショップをやったりしたし、5月にはプロトレイルランナーがスタートから山の1番上まですごい少ない時間で走っていくとかしたり。 だから、ユーザーの幅がものすごく広くなると思っていますね。

村松:うん。元々あるトレイルを『KATSUO TRAIL』と名付けたのか、一部自分たちでつくったりもしたの?

ルーカス:そうね。さっき言った日本全国の古い街道も20年以上いっぱい歩いているから、旧街道の雰囲気がすごく自分の肌に馴染んでいる。これは街道っぽい雰囲気だなとか、ちょっと分かってきた。

それで、少し話が飛ぶんだけど、3年、4年前ぐらいに『PAPERSKY』に『Tokyo Tree Trek』という東京内のトレイルを紙面で提案したことがあった。


引用:PAPERSKY STORE

自分で、今あるトレイルを歩くんじゃなくて、自分でトレイルをつくってみる。それがその『Tokyo Tree Trek』で。東京内の古い木とか面白い木とかをポイントにして、60kmの東京の中の渦巻きの形のトレイルをつくった。それがすごく反応が良かった。自分でやっていてすごくやりがいもあった。トレイルを歩くだけじゃなくて、雑誌をつくるのと同じ感覚でトレイルもつくれるなと。その感覚を持てたことをきっかけに、『KATSUO TRAIL』をつくろうと思った。

やっぱ編集もそうだけど、ストーリーが必要だなと思っていて。 で、いいトレイルは今言ったように、ある。そのトレイルを繋げて自分たちでつくれるイメージはあるけど、ストーリーがないと、世の中にトレイルはいっぱいあるから。じゃあ『KATSUO TRAIL』は何が違うかっていう話になっちゃうから。ストーリーを探すときは資料館で、焼津も川根も島田もその間の町たちの資料をいっぱい見て回った、何かないかなと。焼津はとにかく漁師の町で、鰹(カツオ)という魚をアイコンにすれば、すごく目立つなと思った。かつお節もいっぱいあるし、日清とかマルちゃんとかも、みんな工場もあるし。何かカツオでできたらいいなと思って。カツオと山の奥、どう繋げるかヒントがないとストーリーはできないなと思って。それで川根の資料館に行った時に古い写真が隅にあって、大井川に丸太を流しているものだった。川を下って駿河湾まで運ぶために。焼津には漁師だけじゃなくて、船を作る人たちもいっぱいいたから、その丸太を使って船を作っていたんだね。 あ、これはカツオを取る船だなということに繋げることにした。川根の山の材木によって、カツオを捕る船を作られた、ということ。その写真を見つけてよかったなと思った。


引用:KATSUO TRAIL

ルーカス:このトレイルは5つの市町村を繋ぐんだけど、みんなで繋げられるもので、みんなが持っていることが大事。隣にいる人たちを知ること、歩いて繋いでいくことも大事。この話は社会とトレイルというふたつの交わりそうで交わらないものが分かりやすく重ねられるポイントになるんじゃないかなと思った。親戚が藤枝住んでいるよ、そんな話になって、このトレイルをつくったら歩いてみたいとか、焼津に美味しい食べ物があるよ、山の桜すごい綺麗だから行きたいね、とか、あちこちそういう話が出てくる。どんどんみんなの交流が生まれてくる。そこはトレイルをつくったコンセプトにもなっている。もう1個大きいコンセプトが、このトレイルラーニング=Trail Learningっていうコンセプト。哲学的に、今ウルトラライトがあるじゃん。ULハイカーとか。いかに軽く歩くか。山を歩く上でのちょっとした哲学的だね。僕もそのシンプルイズベストなコンセプトは、価値観だと思うけど、もう1個、今の時代でなんか違うスタイルを提案できないかな、と思った。僕ら『mammoth』(※親子で読めるフリーペーパー)という子どもの本も20年ぐらいちょっとやってきた。教育というテーマにも興味もあるし、自分の内面的な、自分はどういう人間なのかということを考えるのも好き。それでトレイルを歩くことが学べることじゃないかな、学べる装置みたいに、歩く=学ぶ。

何を学ぶかっていうと人間みんな違うからそれぞれの学び、発見があるけど、とにかく歩ければ外で学べることがある。内面的に感じられることもあるし、感覚的に感じられることもある。実際、歩くことで歴史や文化、食のことも感じられる。トレイルランニング(Trail Running)じゃなくて、トレイルラーニング(Trail Learning)というコンセプト。そのコンセプトや哲学のベースを活かして『KATSUO TRAIL』をこれから広げていきたいなと思っている。

新幹線で50分の道のりを歩いてみたことから始まった
歴史や文化を踏みしめる面白さ

村松:面白いですね。トレイルラーニングの話を僕も聞いたときに、わりと最近考えていることと、すごく通ずる部分があるなと思ってた。例えば、例に挙げてくれたULハイクだと、同じ道でもどういう装備で歩くかによって感じ方も違うし、その道の楽しみ方も違うっていう話じゃない。ルーカス的には、そうじゃない、また新しい歩き方のひとつとして、トレイルラーニングっていうのを、コンセプトとして掲げている。また後編では『KATSUO TRAIL』の開通に合わせて発売する『TRAIL LEARNING – 未知を拓く冒険「歩く」』(みなとラボ出版)も掘り下げていきたいんですけど。ちょっと戻って。

ルーカス:はい。

村松:そもそもルーカスが日本の旧街道をなんで歩き続けてきたか。そこから聞いても良いですか?

ルーカス:そうだね。子どもの頃におばあちゃんと一緒に住んでいて、おばあちゃんはキャンプも好きで、よく2人でキャンプに行くことが多くて。おばあちゃんは歩くことが好きだから、小さい時はその体験があって歩くことが好きだった。日本に来て、今でも朝に大体8~10kmぐらい散歩して、終わったらそこから1日が始まるみたいなことにしているんだけど。ある時、焼津の話またしちゃうけど(笑)。日本人みんな年末に実家に帰るじゃない?

村松:うん。

ルーカス:実家に帰っていいけど、いつも新幹線も50分だね。 品川から。

村松:近いね。

ルーカス:そう、近いねと思って。これ歩けるじゃないかなと思って(笑)、奥さんに提案した。今度新幹線じゃなくて「歩いて帰ろうよ」とか言ったら、「何を言っている」みたいな話になって(笑)。まあ、結果バツ(笑)。僕、怖がり屋もあるし、寂しがり屋もあるから駄目と言われたら1人で行く勇気があんまりないから、わかったということで。で、1年の間でずっと考えてた。次の年までに、どうやって奥さんを説得して一緒に歩けるか、なんか考えたらいいなと思って。で、友達が昔の日本の旧東海道という道があるよと教えてくれたんだよね。弥次と北という2人のこういう小説もあるよって。そんなのがあったのと思って調べて、もう1回奥さんに提案する。昔、こういうルートが実際にあったよと。そうするとちょっと興味が湧いて、これ面白いかもねと思ってくれて、これならやってみようよってなった(笑)。それで2011年の『PAPERSKY』多分#36かな? ちょうど震災の後に出た特集で、旅という原点は何だろう? ということで『PAPERSKY』も そこで取材したけど。日本橋から京都まで行く道。うちは焼津で隣町岡部というところに宿場があるので、岡部までとりあえず歩けたらいいねという話になって。まあ、6日ぐらい。全部5泊、10kmぐらいだね。ちょうど真ん中あたりで岡部があるので、半分ぐらいで歩いて行けるねっていう話でした。

村松:なるほど。


引用:PAPERSKY STORE 『PAPERSKY #35

ルーカス:そこまでにわりと大きい山に歩きに行くことが多かったけど、僕は大きな山は好きは好きだけど、ずっと山にいるのはどこか面白くなくなっちゃうね。やっぱり人と触れ合いたいし、おやつも大好きだから美味しいおやつも食べたいし、歴史とか文化とかもやっぱり好きだからそういうのもちょっと知りたい。ずっと自然の中になっちゃうと、そういう要素が出てこない。でも日本は昔、そういう旧道とか街道があるから、こういう歩き方の方が自分にすごく合っているなと思った。この歩き方でめっちゃ楽しかったから、もっとあるんじゃないかということで、どんどん、どんどん探して、日本全国どこ行っても街道があると分かってきて、歩くこと、街道にハマりました。

村松:この2001年の号は、世界一の江戸の街道を現在の旅人ルーカスが歩いた、という1冊ですね。

ルーカス:はい。

村松:これ僕、ルーカスに会った時は、もうすでに毎年、年末に街道を歩いてましたよね。

ルーカス:そうだね、やっていたね。

村松:次は中山道だよとか、次は塩の道だよとか。

ルーカス:そうだね。これは2011年にでたけど、多分1番最初は2008年ぐらいかな。その旧東海道歩いてよかったなと思ったのは。そこから今言ったように、毎年、年末に小豆島のお遍路、空海が本物のお遍路をつくる前の、小豆島内のお遍路。まあ、160kmぐらいコースがあるけど、そういうのも歩いたりとか。あと魚を運ぶのというのが昔は多かったから、そういうサバ街道とか売り街道とかマグロロードとか、そういう街道もいっぱいあるし。あと塩。塩の道が日本海もあるし、太平洋側も。そこは両方歩いたことがあって。お遍路とかもね、最近も知人と一緒に歩いたりとかして。日本はいい道がいっぱいありますよね。

村松:うん。今僕が住んでいる自宅が長野県の御代田町ってちょうど旧中山道が町の真ん中に通ってて、一応宿場も『小田井宿』っていう小さい、信濃追分の次の宿場が町の中にあって。やっぱ旧街道だからまあまあ道幅が狭くて、どちらかというと今は町のみんなが使う抜け道なんだよね。

ルーカス:そうだね。

村松:県道とか国道でもなく、地元の人だけがクルマで通る道で。それでさ、去年ぐらいからランニングのコースに取り入れたの、旧中山道を。やっぱりクルマで通ると全然気づかないけど、走るとそこそこ、その名残を見つけられる。でも案外、走っても見過ごすんだよね。

ルーカス:うんうん、そうだね。ちょっとスピードあるよね。

村松:って思った時に、歩くともう少しちゃんと見れるし、やっぱりランニングの時に立ち止まるって結構ネガティブだけど、歩いていると立ち止まれるじゃん、自然と。

ルーカス:そうだね。

村松:その時何を思ったかっていうと、noruも移動っていうテーマでいろいろやってきているけど、なんか移動の速度ってものを認識する上ですごく大事。

ルーカス:うん、ね。すごく大事だね。

村松:例えばA地点からB地点まで何十年と通勤で通っている人が、その間にある町を、じゃあ仮に30年毎日通っているけど、クルマで通っていたら多分その町は

ルーカス:わかんない。

村松:そう。 意識しないし、自分ごと化しない。けどそれが仮に徒歩だったら全然解像度違うじゃない?

ルーカス:うん。

村松:こんな情報化社会だし、何も考えないと日々めちゃくちゃ流れていっちゃう世の中にはなったけど。移動する速度によって、僕らの認識とか知覚するものが違うんだよって、むしろ改めて自覚していかないとこれからの時代、まあまあやばいなって、去年ぐらいから思っていて。この間ルーカスにトレイルラーニングの話を聞いた時は、今考えていることと近いかもと思った。それで今回は、そもそもルーカスに今までなぜ日本中の街道を歩いてきたのかって話は何度も聞いてきたけど、その速度と自覚すること、認識することみたいなテーマで、なんか改めて聞いたら面白いなと思って、今日があります(笑)。

ルーカス:速度、めっちゃ面白いと思う。 1回計算したら、新幹線で移動する1時間が、歩くと10日間分ぐらいなんだよね。1時間と10日間、その時間の差はがすごく考えさせられる。

村松:そうだね。

ルーカス:だから僕は自転車も好きだけど、ランニングとかもそうだけど、スピード感が違う。

村松:違う。

ルーカス:自転車は何が好きかっていうと意外と距離を課せられる。全部自分の力で。外のことも感じられる。歩くのはそういう意味で1日は結構限界がある。

村松:まあ、移動距離は稼げないね。

ルーカス:30~50kmぐらいが歩くのは結構マックスだから。なかなか距離は稼げないけど、今言ったように、ものすごい情報量が入るよね。

村松:そうだね。

ルーカス:だから、この間、僕はAIですごく喧嘩した。 土曜日(笑)。時間があって、無駄な調べものをしていたから(笑)。

村松:AIと喧嘩した、いいね(笑)。

ルーカス:調べなくていいことを調べていたね。ちょっと暇だったから。でも時間も6時間ぐらい本当無駄になって。すごく怒った僕はAIに(笑)。

村松:(笑)。

ルーカス:それまではAIすごく優秀と僕も思っていて。すごくいい付き合いしていたね。 だけど、その次の日はまあ、AIこれがやっぱ弱いし、できないから…

村松:そもそも、何の喧嘩だったの?(笑)

ルーカス:あるものをビジュアル化してほしくて、文字じゃなくてビジュアルね。でも全然、ダメダメで。言っても説明しても出てこないし、データもなくなるし、なんかすごい問題だらけで。だからAIは言ったことに対することとか、調べることに対することはすごいお利口で、アレンジもしてくれるけど、まだまだ不完全なこともある。 まあ、割り切ったからまた仲直りして今は仲良くしているけど(笑)。

村松:(笑)

ルーカス:だけど、その土曜日はすごい時間が無駄だなと思って。かけている時間。でも、例えばこの歩く旅にしても、3日間だけでも歩いたら1ヶ月ぐらいの気持ちになるよね。

村松:うん。時間の流れね。

ルーカス: 3日間歩いてないけど、1ヶ月ぐらいの満足感が入ってくる。 AIとのバトルはマイナス。時間が取られちゃう。泥棒だよ!みたいに言ったもんAIに(笑)。

村松:言ったんだ(笑)。

ルーカス:要するに、体験しかできない満足感があるよね。トレイルラーニングからは本当にいろんな学びがあるけれど、歩くというメカニズムのようなものがあるとして、村松さんと僕とで、同じ景色を見ても、思ったことや考えること、感じていることはそれぞれ違う。それもひとつのラーニング(Learning)だなと思う。だけど、唯一上がってくる情報は、足の裏で同じところ踏んでいる。だから同じ情報を一緒に感じられることもある。“体験”という意味で、ぜひみんな歩いてほしいかな。

村松:そうね。このnoruを立ち上げるときも、そもそも、最も身近な乗り物って体だよっていうふうに思っていて。当然、この体をどう移動させるかによっていろいろ違うじゃない?

ルーカス:うん。

村松:クルマは自分で移動しながら耳はフリーになるから、ポッドキャストを聞きながらとか、でもその分運転していると、移動中に仕事はできなくなる。でも移動中に仕事したかったら僕は電車移動にするし。どちらかというと早く移動できることが正義じゃない?

ルーカス:うん。

村松:そうやって文明は進化してきたけど、なんか意識的に移動はすごく時間がかかるけど、その移動時間そのものを豊かにしようとかってことが、選択のひとつとしては出てくるかなと思っていて。

ルーカス:そうだね。

村松:今まさにルーカスが言ったみたいに、歩くことでの情報量が違うとか、移動中に獲得できるものが違うから。それはあり方として提案していくべき選択肢だなと思うし、何十年も前に実家帰るのを新幹線じゃなくて、歩こうって言ったのはすごい面白い気づきだなと。

ルーカス:そうだね。あの時もひとつ、時間の話でいうと、ペースをちょっと考えてて。昔の人のペースを歩きたかったね。昔の人は京都まで13日歩いていたから。 平均ですると毎日38kmぐらい。

村松:結構歩くね。

ルーカス:結構歩く。今、高速道路があるのと同じように旧東海道を使っていたから。それより一般の人たちがめっちゃ歩いていた。一般の人間の運動能力とか、体の作りを考えるとすごいなと。

村松:そうね。

ルーカス:それが平均のペースだから。時代が違うと、やっぱりそのぐらいの歩ける体をみんなが持てている。

村松:体ができているね。

ルーカス:体と脳は結局リンクしている。だから、トレイルラーニングは歩くことがすごく学び。歩いて感じた情報が入って、頭が活性する。歩くってそういうメカニズムだと思う。

村松:じゃあ、『KATSUO TRAIL』をつくって、その道をつくることで、またがっていく街やコミュニティを繋げていくという意図もあるけど、つくった道そのものを使って実際に歩いてもらうワークショップやったりだとかね。歩くことの面白さとか、魅力を伝えていくっていうプロジェクトなんだね。

ルーカス:そうだね。

村松:へ〜面白い。

ルーカス:津田直さんという写真家がいるけど、子どもたちと一緒に10kmだけ一緒にこの『KATSUO TRAIL』を歩いたことがある。焼津側は漁師町だから、かつお節を作る工場に寄ったりして、まだかつお節なる手前でちょっと柔らかい『生節(なまりぶし)』を食べたり。すごく美味しいし、商品にもなっているけど、ほとんどの子どもはそれを知らない。自分の住んでる街でそこには職人さんもいて、味を知って、みんなそこですごく感動していた。僕らが一方的に教えるんじゃなくて、ただ一緒に歩くことで、自分たちで吸収ができるものがあるし、身をもって学んでいくことができる。興味やきっかけをつくったりとかね。実験的にそれをやったワークショップだったけど、大成功だと思った。

『KATSUO TRAIL』には9個のセクションがあるんだけど、もしかしたら、将来は近辺の小学生が毎年どこかで、セクション1とかセクション2とか、ちょっとずつセクションを潰していって、大人になったとき自分で『KATSUO TRAIL』歩きましたってなると、また面白いなと思うね。

村松:残念だけど、そろそろお時間なので、今週はここまで。今日の話を簡単にまとめると、ルーカスが雑誌づくりや編集することの延長線で『KATSUO TRAIL』という歩く体験をつくった。そこでは歩くことの中に物語が詰まっていて、身体感覚も伴って、歩くたびにマインドを変化させながらストーリーを体験してもらう。そこのコンセプトにはトレイルラーニングっていう、キーワードがある。すごい面白かったなとは思いました。

ルーカス:ありがとうございます。

村松:後編ではこのトレイルラーニングについて、そしてこのトレイルラーニングっていうことをテーマにした本を5月5日に発売するということなので、この辺について話を聞いていけたらと思います。 本日話した内容は、noru journalの方でもテキストにてお届けしています。 読み直したい方はぜひ記事の方でも、関連の写真とかと合わせて掲載していますので、お楽しみください。ではでは、ルーカス、ありがとうございます!

ルーカス:ありがとうございます。すごい上手をまとめました。

村松亮(むらまつりょう)
noru journal編集長。東京-伊那谷-御代田の3拠点を移動しながら暮らす。会社・編集部は東京なので、週2~3回は出稼ぎに。2022年より、家族と米作りを始めました。
IG : @ryomuramatsu

ルーカス・B.B.
1971年アメリカ・ボルチモア出身。大学卒業翌日に初来日。1996年、アメリカで『Knee High Media』を創業。翌年1996年に〈ニーハイメディア・ジャパン〉を設立。以来、『TOKION』をはじめ、トラベルライフスタイル誌『PAPERSKY』や、パパ・ママ・キッズのための『mammoth』を制作・発行する他、自転車でめぐる日本再発見の旅プロジェクト『PAPERSKY Tour de Nippon』や、オリジナルのアパレル・雑貨ブランド『PAPERSKY WEAR』『PAPERSKY TOOLS』の開発なども行なっている。
IG:@lucas_khm

photo by Masaru Furuya