column
似車絵を描いてもらう、だけじゃない豊かな時間
村松:本日のゲストは詩人のウチダゴウさんにお越しいただきました。ゴウさんとのお話は2週にわたって隔週更新でお届けします。よろしくお願いします。
ウチダ:お願いします。
村松:今日はゴウさんのアトリエ兼ご自宅で収録させてもらっています。実はゴウさんはnoru journalには、PEOPLEと、ART OF MOBILTYという連載に以前登場いただいています。プロフィールを簡単に紹介しますね。

アトリエ兼自宅

PEOPLE #055|詩とクルマの共通点は“それひとつで、遠くへ行けること”

ART OF MOBILTY |#04 クルマが直面する時代背景をうたう詩と、世界にひとつだけの似車絵 by ウチダゴウ/ナカムラルイ
村松:1983年、広島県生まれ。立教大学にて法学を専攻。卒業後10代から書き続けていた詩をもとに、単身、詩の活動を開始。自身の活動に必要だったフライヤーのデザインを自ら始め、詩の感性をもとにコピーを書かないかと誘われたことがきっかけとなり、同じ頃からコピーライティングや広告デザインを手がけるようになります。現在は、ロゴから名刺に至るまでブランディングも兼ねたディレクション・デザインを手がけ、また2009年冬、長野県松本市に移住。自宅の一室にて、詩とデザイン〈してきなしごと〉を開業。詩の執筆・寄稿、詩集の出版を始めます。また、全国各地で、個展・朗読会を開催・出演。2018年春には同じ長野県安曇野市に、自宅兼アトリエをデザイン・建設。併設のギャラリー〈SHITEKI NA SHIGOTO Gallery〉として、スタートさせます。同年秋に詩の教室を開校したり、この頃から“詩で生計を立てる”ということを指針に、ファッションブランド、レストラン、ワインやビールなど、単なる芸術活動にとどまらない、経済市場と手を取り合える詩のありかたを表現し模索しております。どうでしょう?
ウチダ:はい、多かね (笑)。あってる。
村松:ということで、あの手この手で詩を日常に送り込んでいますね。
ウチダ:はい。
村松:そんなこんなで本編も始めていきます。今日は僕が何でこのアトリエにお邪魔しているかといいますと、今絶賛イベントの最中。灼熱の日差しから逃げるように、リビングで収録をしています。ゴウさんとイラストレーターのナカムラルイ(@ruinakamura_1995)くんのタッグで毎年お送りしている『くるまさいこう』というイベント。実は去年からnoru journalとして出店させていただいており、会場の一角に小さいブースを出させてもらっています。そもそもこの『くるまさいこう』ってどんなイベントかご説明いただけますか?


ウチダ:はい。僕が2020年に書いた『くるまさいこう』という詩がもとになって、クルマ好きのためのイベントをやろうっていうふうに考えました。詩だけだとあれだから、詩がプリントされたカードの空いている上半分に自分の好きなクルマをイラストレーターが書いてくれる、みたいなイベントにしたらいいんじゃないかなって。で、当時、多分ルイ君は絵描きとしてやっていくっていうのが決まったぐらいの時だったと思います。「いいんじゃない、やろうよ!」って言って、あのちょっといい感じに抜けた絵がこの企画にすごく合いそうだなと思い、声かけて以来ずっと一緒にやってるんですね。

村松:リスナーの方もイメージできるように、記事には2人の合作のメモリアルカードを何枚か写真で載せておりますので(上画像)、ぜひ見てください。実は僕も東京時代に乗っていたプジョーのクルマが二駆で、長野に来てからなかなかどうしても四駆じゃないと日々立ち行かないことも多かったのでさよならする時に、オンラインでオーダーさせてもらいました。今、自分のデスクの前に飾ってます。ゴウさんの詩とルイくんのクルマの絵、通称、似顔絵じゃなくて、似車絵(にしゃえ)?
ウチダ:似車絵(にくるまえ)。
村松:にくるま絵か。僕はさよならするタイミングで書いてもらいましたけど、来場したり、オンラインオーダーされている皆さんってどういうタイミングのことが多いですか?
ウチダ:うーん……。同じように、車検通らなくて廃車するから記念に残したいという人もいるし、免許取って最初のクルマなんです、みたいな人もいるし。あとは、いつか乗りたいクルマとか、憧れのクルマとか。映画のバックトゥザフューチャーのクルマ、デロリアンを書いてくれとかっていうのもあるし、いろいろですね。
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村松:確かに、そっか。今日は会場の皆さんはご自身の愛車で足を運んでくれて、実際のクルマをゴウさんとルイくんで、オーナーさんとクルマのエピソードを話しながら絵を描いて、ゴウさんが最後サインをして渡していくっていう流れになっているんですけど。オンラインのオーダーは写真を送って描いてもらうので、自分で乗ってないクルマとか、かつて乗ってたクルマとかの写真があればオーダーできるっていうのは、いいところですね。
ウチダ:そうですね。自分だけじゃなくて、例えば友達に贈りたいというのもあったり、親が免許返納するから最後に一番好きだった愛車を書いてプレゼントしようとかっていうのもあるし。
村松:この高齢化社会にいいサービススタートしましたね(笑)。
ウチダ:(笑)
村松:今日も横で見てましたけど、ルイ君が書いてて、ゴウさんが横にいて、オーナーさんがクルマのエピソードを、どんなところが好きかとか話したり。その一連の時間がすごいいいですよね。豊かな時間を皆さん過ごしてるなと思いました。
ウチダ:うん。最初は、ルイ君描くのに集中したいだろうと思って、じゃあ僕が喋るかぁっていう感じだったけど(笑)。なんかやっぱり、このクルマとこの人のこの間は何なんだろうみたいなのはわかった方が、単純に楽しいし、お客さんも明確になるんですよね。どういうクルマなんですかって聞かれて、実際語ると、自分の物語がちゃんと言語化されるじゃないですか、ここに。自分の頭の中にはあったとしても、人に喋るとよりはっきりしてくる。彼、彼女が浮き上がってくる。クルマのイベントだけど、実はちょっと人のイベントでもあるというか。


村松:さすが詩人ですね。言葉にするっていうところの解像度が違いますね。やっぱり。確かに。
ウチダ:自分のことを喋ると、自己がはっきりしてくる。それが目的ですとは言わないけど、間接的にそうなっていったら、まあ、ハッピーだよねっていう。
EVが加速した2020年に書いた
“ただ、クルマが好き!”を表現した全部を認める詩
村松:うん、なるほど、なるほど。このイベント自体は、ゴウさんが書かれた『くるまさいこう』という詩が真ん中にあると思うんですけど、その『くるまさいこう』っていう詩はイベントが始まる以前の2020年に書かれて、このイベントは2021年から毎年開催されていると思います。詩を書いた当時の2020年って、ちょうどコロナ禍で、みんなの移動や消費活動が止まったことで、一気に環境負荷が下がったニュースをいろんなところですごく耳にするようになったこともありました。いわゆる、ガソリン車みたいなのはあんまり良くない風潮がちょっと瞬間風速的にはあった気がするんですよね。燃費の悪い旧車よりEVだよね、みたいな。で、その中でゴウさんの詩って、いいクルマ、悪いクルマとかっていうのを抜きにして、クルマ全部を評価するというか。クルマに乗ってどこか行くとか、そこから見える景色みたいなことを全て称賛するような詩だったなぁと思っていて。だから、今回改めて読み直した時にすごく時代性を感じて、面白かったんですよ。そういうふうには書かれてないけど、宿ってるなぁと思ったんですけど、今振り返るとどうですか?

ウチダ:うん。どうしても詩っていうと、説教くさかったりとか、何かメッセージがある、みたいなみんなのイメージがあると思う。けど、そうじゃない、ただ好きだけの詩、だけど、ちゃんと詩になってる、そういうのが書けたらいいなと思って。じゃあクルマでやってみるかって。ただクルマ好き! っていう詩を書いてみようと思ったんです。その時に、EVを絶賛する詩にしたり、いやいや旧車でしょ、にすると、こっちの人はいいねって言うけど、こっちの人はなんだよってなるじゃないですか。それじゃあちょっとなと思って、全部を認める詩にしたいなと思って、書いたんです。
でもなんかそのポジショニングは僕の人生、多分ずっとそんな感じがしますね。そんな単純なことなのかな、みたいな疑問が湧いていろんな角度から見てみたときに、あっ、これもありじゃない?みたいなので書いていく。これが正解だとは言ってないんだけど、こう見たらどう見えます?っていう感じで書くって感じ。
村松:確かに詩を書くって……素人目線ですけど、何か伝えたいグツグツ煮え立つようなメッセージを表現するとか、そういう勝手なイメージもありつつ、実際そういうこともあると思うんですけど。こう見たら景色が変わるんじゃない、とか、この切り口で風通し良くなるんじゃない?というところから、詩が生まれていくことがどちらかというと多いんですか?
ウチダ:まあ、それも結構ある。もともと正解なんてこの世の中にないじゃないですか。正解だと思っているだけなので。でも、時代もだいぶ多様化していって、本当に正解がバラバラになってきたから。どれが正解ですって言うのはおかしいから(笑)。だからあの詩の場合は、全部をいいねって、若い頃はそんなの嫌いで「なんだよそれ、どっちかちゃんとはっきりしろ!」って感じだったんですけど。やっぱ40過ぎて、なんかみんな全部いいよねってニコニコしたいな、みたいなので書きましたね。
村松:その話聞くと、この立ち位置に立ってみたらどう、とか、こう覗いてみたら?とか、詩を読んだ時にポジショニングとか視点とか、そういうものが隠されてるって思いながら、読み直すと面白そうだなと思いました。
ウチダ:みんななんか、日本人だけなのかはちょっとわかんないですけど、言われたことが正解だと受け取らなきゃいけない風潮があるじゃないですか、日本って。
村松:確かに確かに(笑)。
ウチダ:で、それと違う意見を持っていると言えないみたいな。でも、そんなことはないと思いますよね。僕はやっぱり詩をずっとやっていく、詩で生計を立てる、詩で持続可能にやっていくって考えたときに、このポジショニングからでずっとやっていくとネタ尽きちゃったり、もう言ったよねとか、また言ってるみたいになるので。長くやっていくには広げなきゃいけなくて。だからあんまり自分が個人的に正しいと思っていることを書くというよりは、ここ立ってみたらどう見えるのか、こっちだとどうか、みんな最近こう言っているから、じゃあ右から言うと見せかけて同じポジショニングから言うけど、ちょっと違う風景見せると。そうやってブレさせて、さあ考えましょう、みたいな(笑)。だから、ちょっと僕の中で遊んでいるんですよね。

村松:面白いですね。
ウチダ:で、感想を聞いて、あっ、そう思ったんだ、僕は別にそう書いてないけどねって思ったり。実はその人がそう決めているところだったりするんですよ。面白い。
村松:へえ。面白いですね。
ウチダ:壮大ないたずらみたいな。
村松:なるほど、なるほど。後編では朗読ライブについて聞きたいですけど、そこでゴウさんが仕掛けていることが、今の話を聞くと少し垣間見えて、ますます興味が湧きますね。まさにイベント中に収録してますんで、お客さん来たなと、戻らなきゃいけないぞ、みたいなところもありますけども(笑)。
前編を終える前にひとつだけ。クルマと人と暮らしみたいな切り口っていうのは、noru journal立ち上げからずっとやってきてまして、『PEOPLE』という愛車スナップの連載もあるんですけど。先ほどゴウさんも『くるまさいこう』に来ていただいたお客さんの方々の話を聞きながら、その人とクルマというものから、その人の生き方だとか、暮らしみたいなところをちょっとのぞき込んでるような感じなのかなと思うんです。今年4年目のイベントでもあるので、相当なクルマとそのクルマに乗るオーナーさんを見てきたり、話してきたと思うので、ちょっと聞いてみたいんですけど。
ゴウさんにとってクルマとはなんですか?
ウチダ:なんだろうな〜。なんだろうなぁ……。なんだろうな、クルマなー。
村松:難しいですね。
ウチダ:難しいよね。まあ、今自分が乗っているクルマに関してだと、別に深くもなんともないけど、楽しませてくれるものっていう感じがしますね。
村松:うん。目の前にある、サーブですね。

ウチダ:サーブですね。今、暑いから日中は乗らないんですけど。エアコンがちょっと効きづらくなってるので。夜、日が沈んでからインター近くのカフェまで行って、飲んで、帰ってくるみたいな感じなんですけど。なんだろう、まあね、まだ機械、メカのクルマじゃないですか。だから、やっぱりハンドルを動かした分だけちゃんと動く。ああ、なんか楽しいね〜っていう感じですね(笑)。
村松:うん。いいですね。
ウチダ:この間に何もいない、コントロールされてない。1:1な感じです。
村松:それ分かるな〜。まだクルマっぽい、みたいな感じありますよね。
ウチダ:そうそう。
村松:僕も乗ってるクルマがちょっと古いんですけど、仕事でレンタカーして現行車に乗ったりした後に、自分のクルマに乗ると“まだ残ってる〜”みたいな感じあります。
ウチダ:今のクルマの良さは良さであるんだけど、でもこれ、乗ると、そうなんだよ! っていう(笑)。
村松:だから今の話でいうと、身体の拡張した先にある乗り物なんでしょうね、まだ。
ウチダ:そうですね。マツダとかだと“人馬一体”とかって言うじゃないですか。そういう感じがまだあるクルマっていう感じがして。
村松:そうですね。今の現行車もまだあるんでしょうけど、グラデーションで言うと、だいぶ手前? にあるんでしょうね。
ウチダ:そうですね。踏んだ分だけヴーンっていくっていうか(笑) 。
村松:面白いですねいろんな回答が。これはもう本当に正解はないんで。
ウチダ:そうですね。
村松:今、PEOPLEも200人以上取材してきてますけど、必ず皆さんに聞いてます、この質問。
ウチダ:みんな悩むでしょう(笑)。
村松:みんな悩みます(笑)。うまいこと言ってくれる人もいるし、なんか言葉をつないで…、でもその一言にならない感じもリアルだし、案外そこにもいろいろ見えるんで。
ウチダ:多分明日聞かれたら違うこと言ってます。
村松:(笑)。
では、そろそろお客さんのところに戻りましょう、ということで、今週はここまでです。この話の続きは2週間後にまたお届けしますので、お楽しみにしてください。 ではでは、ゴウさん、ありがとうございました!
ウチダ:ありがとうございます!

ウチダ ゴウ (詩人・グラフィックデザイナー)
1983年生まれ。立教大学法学部卒。詩とデザインのアトリエ〈してきなしごと〉代表。詩人としての活動は、執筆・出版だけでなく、商品コンセプトや企業理念の詩執筆、店舗ディスプレイとしての詩のハンドライティングなど多岐に渡る。グラフィックデザイナーとして、詩的感性に由来したグラフィックデザインを手がける。全国各地で個展・朗読会を開催、出演。近年は英国・スコットランドを度々訪ね、現地での執筆・朗読・個展活動を行っている。またギャラリーを運営し、さまざまなアーティストや作家の作品紹介にも力を入れている。雑誌『nice things.』に2025年春まで詩を連載。詩集に『空き地の勝手』『原野の返事』(してきなしごと)、『鬼は逃げる』(三輪舎)など。絵本『せんめんじょできっちんで』(文ウチダゴウ、絵ザ・キャビンカンパニー、発行ブルーシープ)が7/10に刊行されたばかり。
HP:shitekinashigoto.com
Instagram:@shitekinashigoto
photo by Moe Kurita
