Local2026.03.19

#05 軽トラで畑をめぐるDJ百姓

ローカルな土地の魅力を「移動」という視点から掘り起こしていく新カテゴリLOCAL。最初の舞台は、近年移住者が増えている長野県・御代田町。

#05に登場するのは、この町で生まれ、山小屋やスキー場を渡り歩いたのち、ふるさとの城趾エリアに農園をひらいた飯塚悠介さん。軽トラのサンバーで畑をめぐりながら100種類近い野菜を育て、たまにDJとして音を鳴らす。畑と家をつなぐわずか数分の道のりが、段取りと休息を同時に生む大切な移動時間なのだそうだ。

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山小屋と季節労働からたどり着いた有機農業の道

平成元年に御代田町で生まれた飯塚悠介さんは、成人して一旦は住み慣れた町を離れた。そして7年前に故郷に舞い戻ると、浅間連峰と八ヶ岳を望む、周囲を川に囲まれた島のように浮かぶ城趾を借りて、〈duca farm〉という農園を立ち上げた。そこで有機農業に従事しながら、同時にDJとして選曲活動を始めた。

「主に地元のイベントやマルシェでBGMをかけています。ヒップホップが大好きでDJを始めたんですけど、畑で仕事しているからか、音楽の趣向性がずいぶんと変わって、大自然を感じさせる音楽やエスニックな民族音楽とかをセレクトすることが多くなりました。ただ、最近は機材をセッティングだけ担当して、DJプレイは他の人に任せることが多くなっちゃって。自分は野菜を売らなきゃいけないから、選曲するタイミングがないんですよ」

飯塚さんは、代々農業を営んできた家に生まれたわけではなかった。彼の父は会社勤めのサラリーマン。彼自身は山が大好きだったことから地元を離れ、季節労働を生業に全国各地を転々としていた。北アルプスの山小屋で半年くらい住み込みで働き、冬になると北海道に渡ってニセコのスキー場でバイト。その合間に愛媛でみかんの作業を手伝う、といったように。そんな遊牧民のような生活を何年か繰り返すうちに山小屋のバイト仲間から、「長野の佐久穂町で有機農業を始めた人が働き手を探している」という話を聞かされた。

もともと農業に興味があった飯塚さんは「地元と近いし、楽しく働けるかもしれない」と思い立ち、佐久穂町で4年間、一から有機農業を学ぶことにした。ちょうど同じころ、早期退職を考えていた飯塚さんの父も息子の決断を見て一念発起、趣味の割には規模の大きい家庭菜園を営んでいた母を巻き込んで、一家で就農することになった。両親は「有機農業のことは詳しくないから」と、JAに出荷するブロッコリづくりを受け持ち、飯塚さんは多様な野菜を少しずつ生産する「多品目少量栽培」に取り組み始めた。
春と秋はからし菜、ルッコラ、わさび菜といった葉野菜、またはかぶ、にんじん、ビーツ、じゃがいもなど。夏はトマト、ピーマン、なす、もろこし、枝豆、ズッキーニ。こうした野菜や根菜を仲間や知り合いを通じて、地元のお店やホテルなどに卸したり、ファーマーズマーケットなどで販売するようになった。


小田井城址一帯は現在は畑地だが、城郭の構造が一部残っている。

多品目少量栽培が生む忙しさと楽しさ

「一品目を大量に生産する方がお金にはなるとは思うんですけど、“野菜をつくるのが楽しいから”と遊び半分でやってたら、どんどん増えちゃって。“こんな野菜もほしい!”という要望もあったりして、気がつけば100種類くらい栽培してる(笑)。種類が多くなると、野菜それぞれの手間がかかるんで、めっちゃ忙しいです」

いくつかの場所に分かれている畑から飯塚さんの自宅までは、だいたい5分ほど。日々の足はスバルのサンバーという軽トラックだ。

「移動中はいつも仕事の進め方ばかり考えています。農業は天気に左右されるので、1週間先の天気予報を見て作業の優先順位を決めたり。野菜の種類が多い分、気づくことがいっぱいあるんですね。いつも畑の回りをぐるぐると軽トラで走っては”あの野菜のあそこを結んで固定したほうがいい“ “あっちの野菜が食われている。どこをどのように柵を囲めば鹿対策になるか?“とか。畑を見れば見るほど、仕事が増えるんです(笑)。音楽をかけることはないですね。10分程度の運転なので、せいぜい2、3曲しか聴けませんし」

生まれ育った町で起きる風景の変化

畑と自宅を行き来する短い移動はまた、飯塚さんにとっての数少ない休憩時間を意味している。直射日光を長時間浴びる労働者にとって、車内は貴重な日陰であり、椅子もあれば飲み物もあるという、この上なく快適な空間だからだ。とはいえ軽トラックで出かけるのは、せいぜい隣町まで。さらに遠出するときは、ジムニーが良き相棒になる。

「古いジムニーなので軽トラぐらいガタガタするんですけどね(笑)。どこかに出かけるときは、音楽をたくさん聞く。で、“遠くへ旅に出たいなあ。このままどっかに行っちゃいたいなあ”と妄想したり。もっと頻繁に山に登ったりしたいんだけど、冬以外は毎日仕事があるので。畑も大好きだし、自然と向き合う毎日にとても満足しています」

御代田町で根を下ろしてからというもの、遠くに出かける機会がぐっと減ってしまった。その代わり、移住者が急増して変わりゆく地元の姿を実感するようになった。もともとこの町で生まれ育っただけに、慣れ親しんだ風景の変化には敏感だ。

「“御代田も都会になったよね”と、地元の仲間とは話します。昔はすごい田舎で、BMWとかベンツみたいな外車は、お盆休みにしか見かけなかったから。移住してきた人たちとは積極的に交流しています。デザイナー、エンジニア、クリエーター、ライター、ディレクターと自己紹介されて、はじめは何の仕事なのかわからなかったし、自分も“ファーマーです”って言ったほうがいいかなとか考えて(笑)。先日、美術館やショップ、カフェが集まる、町内で最もオシャレな施設『MMoP』で、移住者の方が開催したマーケットに行ってみましたが、“ここは表参道かな?”みたいな空気感を、まさか御代田で感じるとは、予想していませんでした。集まった大勢の人からも、都会っぽい、おしゃれな香りが立ち込めてて。地元の人間とは見た目も匂いもまったく違うから、すぐに分かっちゃうんです(笑)」

時間割のグラフ

#05飯塚悠介

age35

出身地

長野県

現所在地

長野県

職業/肩書き

百姓

SNS/HP

IG:@ducaism
@ducafarm

現在乗っているクルマ

SUBARU サンバー 2019年式

日々の移動手段を教えてください

軽トラック

移動時間に何をしていますか?

移動距離が短く、5〜10分ぐらいなので考え事ぐらいです。たまに音楽も聞きます。

移動時間にどんなことを考えますか?

どこの畑のどの野菜のメンテナンス作業をしようか考えたり、優先順位を決めたりしています。

移動する時間は自分にとってどんな時間ですか?

休憩時間。なんとなく快適な時間。

あなたにとって移動とは

整理整頓の時間。一息休む時間。

Photo by Keita Noguchi Text by numa Edit by Naonori Kato Produce by Ryo Muramatsu

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