Local2026.05.01

#08 人と土地をつなぐ御代田の「入り口」とこれから

ローカルな土地の魅力を「移動」という視点から掘り起こしていく連載、長野県・御代田町編。この地で暮らす人々の「移動時間」が、どのように日々の実践や思想を育てているのか。

#08に登場するのは、御代田駅前でカフェ、バー、ギャラリーとゲストハウスが一体となった『CORNER SHOP MIYOTA』を営む前村達也さん。東京のデザイン事務所でプロジェクトプランナーとして働いていた彼は、家族とともに御代田町へ移住し、人と人、土地と土地をつないでいくことに励んでいる。そうした活動には、彼ならではのローカルとの関わり方がにじんでいる。

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移り住む人たちと、前村さんの決断

長野県内で有数の人口増加率を誇る御代田町は、平成の中期からじわじわと転入者が増え、令和を迎えると、そのスピードに拍車がかかった。時を同じくして、オルタナティブな教育方針を掲げるふたつの私立学校が開校したこともあり、そこへ子どもを通わせる家族や、テレワークの推進によって出勤する必要がなくなったビジネスパーソンが、近隣駅から新幹線で1時間ほどで東京にアクセスできる利便性に目をつけて転居していると推測される。

3人の子どもを持つ前村達也さんは、東京のデザイン事務所に籍を置き、プロジェクトプランナーとして展覧会の企画・運営に携わっていた。

2018年に長野県・御代田町の一角の土地を購入し、4年後に自宅が完成するが、2020年にはひと足先に家族で移住し、東京の勤務先を退社して独立も果たした。

コロナが映し出した「集まる場所」の不在

ちょうどそのころ、社会は新型コロナウイルスの蔓延によって大きく揺れていた。

御代田に移り住んだ住民たちは、新たなコミュニティをつくることを許されなかった。東京から長野へ軸足を移し始めた前村さん一家にとっても、パンデミックは大きなインパクトを与えた。

「当時は集会自体が禁止されていたじゃないですか。集う機会も場所も失った僕ら移住者は途方に暮れました。『おうち時間』『黙食』みたいな様式が、そのまま定着しちゃうかもしれないと疑心暗鬼になっていた。で、しばらくしてこの場所が空いていたと聞き、ここで長く暮らしてきた先人と新しい住民が交わる場所をつくろうと思い、お店を始めることにしました。

僕自身、移住者同士だけじゃなく、地元の人とやりとりする場所がほしいと思っていました。他者のこと以上に、自分が町に根を張るきっかけづくりをしたいという意味合いが強かった。2022年に自宅も完成して、そこから1年くらいかけて準備をして『CORNER SHOP MIYOTA』をオープンさせたんです」

町の“入り口”として

そのような背景から御代田駅前に開業したお店は、飲食店とギャラリー、ゲストハウスがひとつになった場所だった。

移住者の多くは、都会での生活に見切りをつけたとはいえ、心のどこかで誰かと会うことを期待している。1階のスペースはカフェと酒場として、コロナ禍が過ぎ去った御代田の交流の場として動き始めた。

一方、2階のゲストハウスに関して、前村さんには明確なプランがあった。

「御代田町には宿泊施設があまりないんです。仲のいい人が遊びに来たのなら自宅に泊まってもらうけれど、友人の友人まで招待するのは難しいじゃないですか。でも次々と“友人の友人”がやってくるんですよ(笑)。そういうときに泊まれる場所があると、自宅の延長みたいな感覚で提供できると思って」

宿泊者の大半は台湾などアジアからのゲストだそうだが、ヨーロッパからの来客も少なくないという。欧州からの旅行者は、口コミでやってくる人たちが多い。前村さんは20代の後半、オランダの大学でコンセプトプランニングを学び、その後もヨーロッパのアーティストと仕事で接する機会が多かった。

そうした関係性を通じて御代田にやって来る “A friend of a friend” が跡を絶たないのだ。

“友人の友人”が訪れる場所

「特にデザインをやっている人々が好む“日本らしさを感じるスポット”って、一般的な観光ガイドブックには掲載されていない。アクセスしづらい場所でのニッチな体験を求めて、ここに滞在する人が多いです」

実際にゲストハウスを始めてみて前村さんが気づいたのは、「御代田は旅の拠点になり得る」という事実だった。クルマがあれば松本や新潟、金沢や飛騨高山に1時間半から3時間程度でアクセスでき、クルマがない人にとっても、「鉄道駅の目の前にある宿」という利便性の高い選択肢を提供できる。

東京から金沢に向けて旅をするアジア系の旅人が、「軽井沢で泊まりたい宿が見つからない」と電車でやってくることもあれば、「観光地めぐりよりもローカルの暮らしを楽しみたい」と期待する西欧系のゲストが、1階の酒場で地元の人と酒を酌み交わす。

アイルランドとパリを拠点に活動するアーティスト、ナイジェル・ピークが、日本滞在の折に御代田を訪れ、『CORNER SHOP MIYOTA』で静かに過ごしたこともあった。

滞在中は、駅前の風景や町の建物など、気になった場面を少しずつドローイングにしていたという。その背景には、フランス人アーティストのフィリップ・ワイズベッカーから「御代田はいい場所だよ」と聞いていたこともあったそうだ。前村さんにとっては、かねてから交流のある作家たちが、こうして町を訪ねてくれるのがうれしい出来事になっている。

ここにやってくるゲストは、国内外を問わず、“友人の友人”として訪れる人が多い。

コンセプトプランナー、講師、百姓——
「常に移動している」日々

 
前村さんは『CORNER SHOP MIYOTA』店主という肩書以外にも、いくつもの顔を持っている。コンセプトプランナー、大学の非常勤講師、そして百姓。コンセプトプランナーとして東京でのイベントの企画に携わったり、まちづくりプロジェクト「ミヨタデザイン部」を主宰し、地域とゆかりのあるクリエイターを束ねたり、同じ文脈から多摩美術大学での非常勤講師としての活動は、2026年度まで続く予定だ。

一方で、田んぼや畑を借り上げて、米づくりや野菜の栽培にも取り組んでいる。もちろん仕入れや清掃といった、飲食および旅館業に欠かせない雑用もこなしている。

「常に移動している」という多忙な日々の移動を支えるのは、スズキ・キャリーダンプ(取材後、1998年式のホンダ・アクティに乗り換えた)、いわゆる「軽トラ」だ。

「自宅にはこの軽トラの他に『トヨタ・ランドクルーザープラド・70』があるけど、そっちは奥さんが乗っています。自分が唯一ランクルを運転するのは、娘を学校に送る時。“軽トラは止めてほしい”と言われちゃうんで(笑)」

息子とともに、日本各地をめぐる移動時間

前村さんは愛車の軽トラで津々浦々へ移動しているそうだ。

鹿児島、能登半島、北海道。アートイベントを見に行ったり、クラフト作家の元を訪れたり、親族の法事に参列したり。興味深いのは、仕事や所用を組み込みつつ、見聞を広めさせるべく息子を同行させていること。ある種の教育を兼ねたユニークな旅について、彼は楽しげな表情で語ってくれた。

「一昨年は息子と能登半島の震災ボランティアに参加しました。その年に開催された中学生による英語スピーチ大会で、彼は学校代表として登壇して、現地での体験について英語で語ってくれた。自分としてはすげーうれしかったし、ウチに来る外国人と交わって磨いた英語力は、なかなかのものでしたよ!」

駅前から広がっていくこれからの御代田

御代田駅前で人と人が出会い、「友人の友人」が世界中からやってくる拠点として育ってきた『CORNER SHOP MIYOTA』。
そのすぐそばではいま、新たな宿泊の場『BRICKS & BLOCKS MIYOTA』も生まれようとしている。『CORNER SHOP MIYOTA』から歩いてすぐの場所にあり、駅前にもうひとつの滞在の選択肢が加わろうとしている。

東京で企画の現場を駆け回ってきた時間も、海外から訪ねてくるアーティストとの対話も、御代田で土に触れながら過ごす日々も——そのどれもが、前村さんにとっては町の外と中を結び直すための手がかりだ。
駅前という入り口に立ち、カウンター越しの会話や一夜を過ごす部屋を通じて、その手がかりを少しずつ人に手渡していく。そうしたやりとりの積み重ねが、この町のこれからをかたちづくる、ひとつひとつの指標になっていく。

時間割のグラフ

#08前村達也

age45

出身地

神奈川県

現所在地

長野県 御代田

職業/肩書き

コンセプトプランナー/百姓/多摩美非常勤講師

SNS/HP

IG:@tatzuyamaemura

現在乗っているクルマ

SUZUKI キャリーダンプ 1998年式(現在の愛車は1998年式のホンダ・アクティ)

日々の移動手段を教えてください

SUZUKI キャリーダンプ 1998年式
TOYOTA ランドクルーザープラド70 1998年式

移動時間に何をしていますか?

日々の段取りについての考え事ばかり

移動時間にどんなことを考えますか?

段取りのことばかり

移動する時間は自分にとってどんな時間ですか?

新幹線は、完全デスクワーク
クルマは、段取りの妄想

あなたにとって移動とは

遠方は新しい発見、出逢い
近隣は収集

Photo by Keita Noguchi Text by numa Edit by Naonori Kato Produce by Ryo Muramatsu

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