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2020.05.10

“旅する写真家”の、旅とクルマと生活のこと
by Daniel Ernst

フランクフルト出身のフォトクリエイター、ダニエル・エルンスト。SNSで70万人のフォロワーを誇る、世界で最も有名な風景写真家の1人だ。彼が発信するアウトドアにインスパイアされた壮大なランドスケープは、見るものに想像の翼を授け、冒険の旅に誘ってくれる。そんなダニエルが、写真を撮りながら旅を続けるライフスタイルについて語ってくれた。

» Daniel Ernst
SNSが人生を変えた

フランクフルトに拠点を構えるダニエル・エルンストは精力的に旅をし、出かけた先で写真を撮っては旅の記録として日々、SNSで作品を発表している。現在のような活動を行うずっと以前から旅や山へ出かけることが大好きで、暇さえあれば自然のフィールドに足を運んでいたというが、当時は写真を撮ってそれを発表するというモチベーションは持ち合わせていなかった。転機となったのは2014年。仕事を辞め、家を整理し、1年半に渡る旅に出かけたのだ。その旅の中で体験した圧倒的な自然美に背中を押され、写真を撮り始めるようになる。

「もっと遠い場所に出かけて、見たことのないような風景を目にしたい。そしてそれを何かに留めておきたい。その情熱が僕を写真に向かわせたんだ。結局、写真というのは言葉を使わずに自分の人生の物語を伝えるメディアなんだよね。だから僕は写真を撮ることに夢中になったのだと思う。言葉がない分、好き勝手に解釈されてしまうこともあるけれど、それも含めて写真の魅力だよね」

プロの写真家もインスタグラムなどのSNSを通じて作品を発表する時代だが、ダニエルはもともとSNSに積極的だったわけではない。旅のブログを運営していたこともあったというが、いまのようにSNSを使うようになったのはごく最近のこと。それも偶然の出会いが重なった結果なのだとか。

「2015年にSNSのパイオニアのようなクリエイターたち数人と知り合う機会があったんだ。彼らはインスタグラムで風景やアウトドアの写真を発表していて、僕にも写真を投稿するように勧めてくれた。試しにアップしてみたところ、それがバズったんだ。フォロワーが一気に増え、いろいろなブランドや企業から突然、撮影のオファーが来るようになった」

SNSで一躍、注目を浴びるようになったことは、彼の人生はもちろん、作品にも大きな変化を生じさせた。
「僕が写真で表現したいのは、その風景を前にした自分のストーリー。だからアートワークに関してはいわゆる“インスタ風”のカットは避け、常に創造的な構図とストーリーテリングを見せるよう心がけている。新しいアングル、新しいロケーション、新しいテクニックを模索する中で、自分なりのスタイルが確立されてきたように思うんだ。編集については、色やコントラストなど自分なりのルールを設けて自分らしいクリエイションを目指している。そうした試行錯誤が常にうまくいくわけではないけれど、少なくともより高みを目指すために新しいものをクリエイトしたいというモチベーションは必要だよね」

SNSの申し子ともいえるダニエルだが、一方でそれがもたらすデメリットも理解している。
「SNS全盛のこの時代、移動することなく“旅”の感覚を誰もが味わえるのは素晴らしいことだと思う反面、その土地の文化や伝統、そこに暮らす人々の物語を知るためには、自分自身がその場所に立ち、自分の目でそれを見るという経験が必要だと思う。

ただ、SNSは過剰な反響を呼ぶことがあるよね。自分の投稿がどれだけの影響を与えるかわかるようになって、僕の中で自然を尊重し、環境を守っていこうという気持ちがさらに大きくなったよ。美しいロケーションをSNSで発表することは、その場所にとてつもない変化をもたらす可能性があるからだ。何千人もの観光客が同じ場所で同じような写真を撮ろうとそこを訪れ、結果、ゴミや喧騒で自然を踏みにじってしまう。だから発表する写真には場所をタグ付けしないようにしている。いつまでも自分だけのお気に入りの場所にしておきたいからね」

キャンパーで出かけたノルウェー旅

そんなダニエルの旅の相棒は、2018年製のフォルクスワーゲン『パサートオールトラック』。クルマ選びの基準は?と尋ねたら、ダニエルの答えは実に明快で、「実用性!」と一言。つまり、どんな路面も走破できるパワフルさを持ち合わせ、かつ快適にドライブを楽しめる4駆である。

「カメラ機材のほか、テントやサーマレストの超軽量エアマット、マウンテンイクイップメントの『グレーシャー』シリーズの寝袋、クッカー一式なんかのキャンプ道具はクルマに積み置きしているんだ。田舎道をドライブしているとどうにも魅惑的な山やキャンプフィールド、ハイキングトレイルが現れる。そんな時、色々持っていると安心だよね」

2019年の夏はガールフレンドの愛車である2004年製『T5 トランスポルター』で、ノルウェーへバックパッキング旅にでかけた。『T5 トランスポルター』はガールフレンドの父親に手伝ってもらい、自分たちで改造したキャンパー。ソーラーパネルを搭載していて、これ一つで機材の充電もできるし熱いシャワーも浴びられるから、キャンプ場やホテルに立ち寄ることなく何週間もバックカントリーで過ごすことができる。それはダニエルにとっても得難い体験だったようだ。

「ノルウェーのバックカントリーで荒野をハイキングしたり山に登ったり、毎日そんなことをしながら数週間を過ごした。エンジン音や都会のノイズ、街の喧騒や人混みから逃れられると、満ち足りた気分になるんだよね。自分を圧倒するような風景を眼前に、焚き火を囲みながら、ガールフレンドや友人のおしゃべり、笑い声、音楽に耳を傾ける。僕が幸せを感じるのは、そんなシンプルなものだから」

現在は写真の仕事とパートタイムのオフィスワーク、二足の草鞋を履くダニエル。将来、やりたいことは?
「僕はそんなに綿密に計画を立てるタイプじゃないから、この先のことはあまり考えていないけれど、とりあえずはこのライフスタイルをもう少しだけキープしていきたいかな。そのあとに何が起こるかわからないけれど、それもまた生きる醍醐味。人生はいつも驚きに満ちているからね」

※このインタビューは2019年12月に実施しました

Daniel Ernst
ドイツ・フランクフルト出身のフォトクリエイター。アウトドア、自然、冒険を題材にした写真を撮り、旅の記録として日々、インスタグラムに発表している。ルフトハンザ航空、メルセデスベンツ、ファーウェイなどの広告写真も数多く手がける。

danielernstphoto.com

Photo by Daniel Ernst Text by Ryoko Kuraishi