column

2020.09.28

#02 《0MILE》 Mind travel
by Akira Yamada from New York

今だからこそ紡げる、距離にまつわる物語を届ける連載「Story of my mile」第2弾。今回は、NY在住のフォトグラファー山田陽さんによる「0mile」の物語。忙しなくNYと日本を行き来していた生活から一変、100日間の自粛期間を過ごすことになった山田さんの“移動しない旅”とは。

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» STORY OF MY MILE

仕事で東京とNYを移動することが多かった、この数年間。2020年3月3日、NY戻りのフライトでその往復が一度ピタッと止まった。小学生と中学生の子どもたちの学校が閉まり、とうとう街が閉まった。本当に100日間以上、ほぼ家から出れない生活を強いられた、この春だった。

自宅待機の始め、以前はいろいろな話をしていたはずだったのに、家族と話すのがぎこちなくなっていた。正直、「仕事、仕事!」と思い込み、旅が多すぎたのかもしれない。

忘れていた、家族との時間

学校の先生が突然のリモート学習に悪戦苦闘しているのと同時に、僕らも子どもたちの学習環境とサポートに追われた。学校が使うアプリは、セキュリティーが弱いZoomがすぐに却下され、Googleがすごいスピードで構築したClassroomとMeetのシステムが採用された。

全てはインターネット。
Googleは、素人の僕でさえ気づくくらいの進歩を数ヶ月で確立した。

連日繰り返される感染状況はテレビとインターネット、そして何よりもWNYCラジオ局から聞こえるニュースを頼りに毎日を過ごした。距離感も近く、話し手も同じ状況下の中、毎日休まず皆が抱えている問題や新しいニュースを親身に伝えてくれるローカルラジオの暖かさを感じた。

外食業はテイクアウトとデリバリーのみ営業可。ただこの状況ではデリバリーさえ感染のリスクがあるのではと、多くの人が利用していなかったはず(僕らも100日間過ぎるまでは、テイクアウトもデリバリーも利用しなかった)。生活必要品を売っている店とサービス以外はすべての店がクローズ。夜8時以降はほぼすべての店は閉まって、ゴーストタウン化したNYの街。

3度の食事の内容を考えるのも毎日の日課になった。僕は、料理が嫌いではない。僕と長女が料理係に任命された。いつも以上に時間をかけておいしいものを作るのはとても贅沢な気持ちになる。お菓子作りが好きな長女は毎日いろいろ焼き始めた。イースト菌がなかなか手に入らず困ったこともあったけど、業務用の大きな袋を見つけて一安心。

仕事も何もできなかったので、17時には妻とお酒を飲み始めたりしていた。ずっと話せていなかった彼女と、政治の事や生活の事、学校の事、そして今までとこれからの事をゆっくり話し込んだ。共有する時間が長い分、口論も始まったし、たくさん笑った、おいしい食事を食べて、いっぱいの食器を片付けた。

一緒に時間を共有していくことで、自分は忘れていた事を思い出した。家族との時間。
ぎこちなかった家族との距離と学校のリモート学習システムが比例するように1日、1日とうまく回り始めていった。

力強く適応する、NYの街と人々

NYの街の凄いところはやっぱり人。適応性と行動力。

みんなロックダウンから1ヶ月後にはマスクをつけだした。日本の方からすると普通じゃんと思うかもしれないが、以前であればNYでマスクをして歩くということは、マリファナを吸って歩くより、変な顔をされていたかもしれないのだ。それくらい、NYでマスクをつけるということは珍しいことだった。基本、外には誰もいなかったけれど、食材を買いに行く場所で会う人たちは、ほぼ100%マスクをしていた。

しっかりしたリーダーシップで皆を引っ張っていったクオモ州知事は、要点を具体的に繰り返し皆に伝え、何が今必要でどうすることで感染者と死者を減らしていけるかということを自己責任で決断していった。指導者が責任を持って実施したことに対して、NY市民たちの協力する力と行動力は素晴らしかった。

今まで体験した、9/11, ハリケーンサンディー、2度のブラックアウト、すべて同じように市民は対応してきていたし、力強く復興してきた。

かつて、NYの地下鉄は、24時間走り続けていた。3月22日以降は、夜中1時から朝5時までは走っていない。外の陽気も重なって、駅や車両にいたホームレスたちが街に溢れている。清掃時間を得た地下鉄は今までにないくらい車内が綺麗になった。その反動か街の至るところが非常に汚くなった。

自宅待機が始まった頃は、溢れる情報で押しつぶされるように夜遅くまで寝付けなかった。それも1ヶ月も続くと、僕は自分の頭の中で旅をし始めるようになった。読めない量の本を日頃から妻と買いあさっていたのでそれらと、Kindleで日本の本も買って読むことができた。

自然、山、スポーツ、小説、SF、政治、社会のシステム、料理、エッセイなんかの本を読み漁った。あ、旅の本も。
そこから興味の湧いたことをウェブサーチでさらに調べたりして。今は動けないが動ける時が来た際にさっと行動できるように。

やめていた瞑想も久しぶりに再開し、目を半分閉じた。

移動をしない旅、頭の中での移動

自宅待機100日間が過ぎる頃、ミネアポリスで起こった警察官によるジョージフロイドさんの殺人事件を受けて、Blacklivesmatter運動が再燃し全米各地で大規模なデモが起こり、今もなお続いている。人々は今ある生活、コロナ、未来への不安などで、心がいっぱいな中に、もうひとつ重たいパンチを喰らった。悲しみからはじまり、怒りへと。

でもこの出来事は自分を取り巻く社会全体のシステムに疑問を抱く良いきっかけになった。自分のことから、私たちのことへと視点が変わりはじめている。

僕はちゃんと黒人問題について勉強したことがあっただろうか。わかることはないかもしれないが、わかろうとする努力はしていただろうか。アメリカの警察のシステム、そこにある問題については? 在米アジア人として自分たちが置かれている状況について、学んだことは?

11月には大統領選挙がある。考えはじめたら別の方向へ旅が始まりだした。

僕は、アメリカ、NYに22年前の9月3日にたどり着いた。何も知らなかった僕はすべての経験が初めてで、生活すべては旅をしているようだった。22年がたった今日、僕にはまだ知らないアメリカがいっぱいある。

これから0mileのアメリカの旅を始めようと思う。

山田陽 
Photographer
1998年よりNYをベースに活動。アメリカと日本を移動しながら撮影の仕事に携わる。パーソナルワークの撮影、展示も続けており、現在、本の作成と展示を計画中。

HP :akirayamada.com
Instagram :@akira_yamada_photography

Photo & Text by Akira Yamada