column

2020.10.27

#05《327 MILE》 Change of pace
by Akira Yamada from New York

距離にまつわる物語の連載「Story of my mile」、今回はNY在住のフォトグラファー山田陽さんの第2回目をお届けする。前回は、移動をしない「0mile」の頭の中の旅を綴ってくれたが、今回はクルマに乗って「327mile」の旅へ出る。

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Covid-19の自宅待機が始まって1週間ほど経った頃、妻がクルマを買うと言い始めた。この事態がどれだけかかるか分からないし、このままだと夏にどこにもいけず気が狂ってしまいそうだと。

数日間、彼女はインターネットサーフをしてなんと本当に、クルマを見ずにバーチャルで買ってしまった。納車はディーラーの担当者が自宅付近まで運転してきて、そこで鍵を受け取るといった手はず。何かあれば、電話とテレビ電話で連絡を取り合うというアフターサービスはしっかりしていた。

実はこの数年間、クルマのない生活をしていた。僕の住んでいるブルックリンのエリアにはほとんど駐車場がない。そのため皆、路上に駐車する。片側ごとに毎週1回ずつ、同じ時間帯にクルマを移動しなくてはいけない。その間に清掃車や道路改修工事が入ったりするためだというが、違反チケットを切るためではないかとも思う。駐車料金はかからないが、場所取りのための時間が拘束される。いっそ料金制にしてもらった方がこちら的には助かるのだが……。そんな理由で、出張も多く自宅で仕事をあまりしていなかった僕らはクルマを手放していた。

ロックダウンの街から出て、新しい空気で呼吸をする

いざクルマがやってきて鍵をもらい、二人でドライブに出かけると、何も気にせず自分たちのスペースのまま(マスクもしないで)動けることにお互い大きく深呼吸した。運転がとても楽しい。

移動手段を得た僕らは自宅待機が少しおさまった頃、旅に出ようと計画を練った。自然が多くゆっくりできるところ、そして食事が美味しいところという理由で、行き先はメイン州に決定した。クルマで行ける距離で、今まで行ったことのない場所はたくさんあったが、感染率が低く、なるべく人がいなく、街が観光客に開いている場所で行ってみたい場所はそもそも限られていた。その頃のNYはだいぶ感染が落ち着き始めていたが、他のアメリカの多くの州では感染がさらに拡大している時期。感染拡大の著しい州からメイン州のホテルなどを予約する際は、PCR検査の結果を提出しなくてはいけなくなっていた。

僕らは、4ヶ月ぶりに旅に出た。ブルックリンから北へ片道327マイル先のメイン州ブーティ・ベイという港町へ。

NYの街を出ると道はほぼ真っ直ぐ。真っ直ぐの道の運転は僕は好きではない。大きな大陸で地形など関係なく真っ直ぐに伸びるハイウェイはなぜか魅力を感じられない。運転をしていく上で、変化に富んだ道の方が目にも気持ちにも優しい気がする。実際、日本でも長い一直線のトンネルとかを運転しているとハンドルを切りたくなる衝動に駆られる時がある。極めて、危ない衝動に。

油断するとやはり事故につながる。変なところで渋滞があるなと思ったら、クルマが全焼していた。

久々に遠方への旅行、運転は妻と半分づつ交代した。交代運転は正解で、メインまでの距離をだいぶ短く感じることができた。100日以上も自宅に閉じ込められていた僕らは、街から出て最初のサービスエリアの空気さえ新鮮に感じた。

久々の長距離運転。疲労するであろうことを考えて、目的地まであと半分と少しといったところで、手前の州ロードアイランドのホテルで1泊した。

クルマを走らせていると、昔からあまり変わっていないと思われる風景に出合った。建物の古さということだけでなく、変わる必要がないからそのままの姿で残され、朽ちているのだろう。新しいことが必要でないこともある。

夕暮れ時にようやく目的地についた。夕陽と海風に囲まれた。久々に美味しい空気を吸った気がした。

次女の要望は、プールで泳ぐこと。海沿いのプールは海水を利用した温水プールだったので、風が冷たいこの辺りの気候でも、長い間子供たちは泳いでいた。僕と妻は久々に日光浴。


綺麗な夕日を、家族との食事を。味わう時間

翌日は隣の島に散策へ。メイン州は海の幸に恵まれている。漁師たちが取ってくる魚もあれば、養殖している場所もたくさん点在していた。
そしてクラフトビールの醸造所がたくさんある。ワインはイマイチだったけど、どこでビールを飲んでもキンキンに冷えたフレッシュな美味しいものを飲ませてもらえた。

たまたま見つけた牡蠣の養殖場で食べた生牡蠣と貝は、最高の味。自分で開けないといけないが、値段は1個75セント。地元Allagashのビールと抜群の相性。



旅のはじめの方の食事は、レストランを予約して向かうという感じだったが、ふらっと美味しそうなお店を見つけたら入り、最悪はフィッシュアンドチップを食べるというふうに切り替えた。



生まれて初めて食べた丸々1匹のロブスターは、プリプリで味わい深かった。

どこに行っても綺麗にみれた夕日は食べ物の味をより深いものに変えてくれて、何が必要だったか家族みんなに伝えてくれた。

帰り際に寄ったアイスクリーム屋さんからは温かい光が漏れていた。

クルマでの移動はその後も終わらずに今に至っている。何年も計画するまでで行けていなかった家族でのキャンプや、ボストン、ペンシルバニア、アップステイトの友人宅へ向かったり、フライフィッシングをしにキャッツキル、山を走るためにベアーマウンテンに向かった。以前より積極的にマイルを踏み、移動している。冬には家族でスキーに向かうつもりだ。

山田陽 
Photographer
1998年よりNYをベースに活動。アメリカと日本を移動しながら撮影の仕事に携わる。パーソナルワークの撮影、展示も続けており、現在、本の作成と展示を計画中。

HP :akirayamada.com
Instagram :@akira_yamada_photography

Photo & Text by Akira Yamada