Column2026.06.09NEW

ポートランドのワーク・ラン・バランス | #02 変わりゆく街と、変わらない街

山田陽

リレー連載「異国と移動のフィールドノート」。旅人、写真家、編集者——それぞれの旅の移動を通して、その土地の日常にふれる瞬間を記録していくもの。アメリカと日本を行き来しながら、移動と仕事を重ねる写真家の山田陽さん。ポートランドでの滞在、変わりゆく街の風景、そして160kmのトレイルレース。移動の中で見えてくる「仕事」と「土地」と「自分」の距離感を記録する。

異国と移動のフィールドノート|記事一覧


ダウンタウンに残る実験の痕跡

橋の下にはテントが連なり、シャッターが降りたままの店も多い。かつてジャパンタウンと呼ばれたエリアにも、隙間なくテントが張られている。

2022年9月、仕事でこの街を訪れたとき、ホテルの周辺には路上生活者があふれ、排泄物の匂いが漂っていた。その時点ですでに厳しい状況だと思っていたが、それから2年、ほとんど変わっていなかった。

この風景には、この街が経験してきた数年間が重なっている。

2020年、オレゴン州はハードドラッグの少量所持を非犯罪化する「Measure 110」を住民投票で可決した。逮捕ではなく治療を優先するという、当時としては画期的な試みだった。

しかし現実は複雑だった。コロナ禍とフェンタニルの蔓延が重なり、過剰摂取による死者は増加。治療体制が追いつかないまま、依存者の流入も指摘され、街の景色は変わっていった。

2024年3月、Measure 110は事実上廃止され、薬物所持は再び犯罪化された。理想と現実のあいだで揺れた実験の痕跡が、いまもダウンタウンに残っている。

変化する中心、揺れる生活

今回の滞在では、半日だけダウンタウンへ向かった。

洋服屋を営む友人と、近くのコンドミニアムに引っ越してきた友人に会うためだ。子どもの成長を機に中心部へ移った友人は、銃声や路上の注射針に不安を感じている様子だった。

一方で、店を営む友人は「ようやく常連がついてきた」と話す。滞在中にも、ふらりと客が入り、自然に商品を手に取っていった。

それでも空き店舗は目立ち、歩いている人は少ない。のどかさとは対極の、どこか緊張を強いられる空気が漂っていた。

ウィラメット川を渡り返すと、空気が変わる。

イーストポートランドのゆるやかな時間

今回滞在したイーストポートランドは、静かで、自転車で移動する人が多い。犬の散歩をする人ともよくすれ違う。ランチで立ち寄ったフードコートでは、地元の人たちが昼からゆっくり食事を楽しんでいた。20年以上前にニューヨークのイーストビレッジで感じたような、あの時間の流れ方。

ダウンタウンで見た景色とは、まったく違う時間が流れている。同じ街の、同じ時間のはずなのに。結果的に、緊張の少ない場所を選んでいたことで、仕事をしながら穏やかに過ごせる滞在になった。

街の静けさと時差ぼけもあって、作業をしていると気づけば朝になっている日が何度かあった。時差を戻さないまま帰国しようと決める。

予定していた撮影を終え、いよいよメインイベントのトレイルレースが近づいてきた。

#03に続く。


山田陽 (やまだあきら)
1976年広島県生まれ。文化服装学院を卒業後、1998年に22歳で渡米。フローラルデザイナーを経て2004年からNYをベースにフォトグラファーとしての活動をスタート。以来、数々の雑誌やブランドカタログ、広告などで活躍中。ライフワークはトレイルランニング。2023年より拠点をNYから東京に移している。
IG:@akirayamada

Share on