都市から山へと続く道
トレイルランニングの長距離レースは、一つの旅のように感じる。
長時間、ほぼ一人で山の中を進む。自然と向き合いながら、自分との対話が続く。一人で旅をしているときと、どこか似ている。
身体感覚を研ぎ澄まし、深く呼吸をする。
ポートランドには、街からそのまま入り込めるトレイルがつながっている。総距離は50キロほど。ダウンタウンからも遠くない。
都市と自然が、地続きになっている不思議な場所だ。
今回参加した「Mountain Lakes 100」は、ポートランドから南西へクルマで約3時間。オラリー湖をスタートし、ジェファーソン山周辺のPCTを巡り、再び湖へ戻る全長160キロのレースだ。
早朝3時、サポートをしてくれる友人に迎えに来てもらい、会場へ向かう。


陽が昇ると、湖面にジェファーソン山が現れる。前半は、その姿を眺めながら走ることになる。

コーヒーが振る舞われ、ゆっくり朝食をとったあと、レースは静かにスタートした。
この半年、膝に問題を抱えていた。歩くのも難しい時期があり、治療を続けながら、ようやく1〜2ヶ月ぶりに走り出せたタイミングでのレースだった。
不安を抱えたままのスタート。案の定、5キロも進まないうちに膝に痛みが出る。動かし続ければ和らぐこともあるため、そのまま進んだ。


焼けた森を抜けて
このエリアは数年前の山火事の影響で、焼けた木々がそのまま残っている。

焼けた木は内部を活かして建材として再利用されることもあるという。友人の話では、ポートランド空港の木造構造物にも使われているらしい。林業の街だった背景が、こうした循環にもつながっている。

PCTのトレイルは驚くほど整備されていて、2〜3時間、人工物を一切見ない区間が続く。大きな熊の糞を何度も見かけたが、不思議と怖さはなかった。体の感覚が研ぎ澄まされるほどに、膝の痛みは輪郭を増していく。かばっていた反対側の膝まで痛み始めた。
次のエイドまで進むことにする。山中のエイドではリタイアができないため、約60キロ先まで進み続けるしかない。痛みと共存しながら、足を運ぶ。


ようやくクルマでアクセスできるエイドに到着し、リタイアを決めた。そこから中間地点まで送ってもらい、待っていた友人に状況を伝えると驚かれたが、これ以上、身体を壊したくなかった。
そのあとは、ポートランドのトレイルコミュニティを眺める時間に変わった。

共通言語としての「走る」
街中ではあまり見かけないようなアウトドア好きの人たちが集まり、ローカルの人々と、僕らのような外から来た人間が自然に混ざっている。
「山を走る」という共通言語が、その境界をやわらかくする。

ただ旅をしているだけでは、ふとした瞬間に自分が異物のように感じられることがある。どれだけ歩いても、その街の輪の中に自然に入るのは難しい。
それでも、共通言語のある場所に身を置くことで、その壁は少しだけ溶ける。
一時的であっても、土地のカルチャーや人と混ざり合える感覚。それが、知らない街でレースに参加する一番の理由なのかもしれない。
山田陽 (やまだあきら)
1976年広島県生まれ。文化服装学院を卒業後、1998年に22歳で渡米。フローラルデザイナーを経て2004年からNYをベースにフォトグラファーとしての活動をスタート。以来、数々の雑誌やブランドカタログ、広告などで活躍中。ライフワークはトレイルランニング。2023年より拠点をNYから東京に移している。
IG:@akirayamada