

本の仕事とともに、東京から上田・御代田へ
ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクターとして書店の経営や本の執筆を手がけてきた内沼晋太郎さん。東京・下北沢に〈本屋B&B〉をつくり、トークイベントを日常的に開催する場として書店を運営してきたほか、出版社や日記専門店の立ち上げ、オンライン古書店と買取サービスを併せ持つバリューブックスの取締役を務めるなど、本の「売り場」と「行き先」を見据えた仕事をしてきた。2025年1月からは、ポッドキャスターとして出版業界や本のあり方を語る活動をしている(本の惑星)。
2019年に東京から長野県上田市へと住居を移し、現在は御代田町に暮らす。
「2人目の子どもができて少し経ったときに、やっぱり東京で子育てをするのはしんどいなと思って。一方その頃、バリューブックスの本社があるので、社外取締役としてよく上田に通っていたんですよ。上田に来ると、2人3人子どもがいる人でも東京より余裕がある感じがして、こういう環境のほうが子どもを育てるのに向いているんだろうなと思って引っ越してみたんです。自分が東京を離れられるかどうかわからなかったですけどね。コロナ禍になって、リモートワークが生まれて、意外と東京行かなくても行けるなと」
1年ほど上田市に住み、子どもの通学のことを考え、御代田町への引越しを決めた。バリューブックスの本社へ浅間山麗広域農道を通って行き来できることを条件に家の場所を探したのだと、内沼さんはその道を走りながら話す。浅間サンラインの愛称で親しまれる浅間山麗広域農道は、上田市と軽井沢を東西に結ぶ。その名の通り、浅間山に沿うように走っている。


AIとポッドキャストで思考を整える
「上田にいた頃もこの道をよく通っていて、すごくいいよねと妻とも喋っていて。だからこっち方面に引っ越すことになって、やっぱりサンライン沿いからちょっと入ったところがいいなと。すぐに土地を決めた。変な高低差やカーブがあって、普段見ない風景がバッと入ってくる場所がいっぱいあるんですよね。御代田町から上田へ行く時も帰るときも、気持ちの良いスポットがあって」
上田市への移動時間は、思考を整理する時間でもある。最近は、対話型生成AIサービスChatGPTの音声会話モードでアイデアをまとめることが多いそうだ。
「バリューブックスの重要な会議がよくあるので、それに向けて考えていることを話たりします。『こういうこと考えているんだけど、どう思う』とか『こういう視点で5個アイデアを出して』とか言って。やっぱりそれもなぜだか移動中のほうがいいですね。もちろん机に向かって白い紙に書き出したりするのも、それはそれで良いですけど。クルマの中にいるときは他に何もできないから、その分考えることに集中できる」

長野県へ住居を移したものの、東京から離れたわけではない。現在も御代田町と東京を往復している。
「月曜日から水曜日は御代田の家でデスクワークやオンライン会議をしていて、火曜日か水曜日の途中に上田に行き、木曜日の朝に出て東京へ。都内で一泊して、金曜日にはまた御代田に帰ってくる。家族もいるので、基本的に土日は休みにできるのが最も平和ですが、イレギュラーもたくさんあります。最近はポッドキャストの収録で休みがなくなりがちなんです」

距離があるから、見えてくる東京
東京までの移動の約8割は、新幹線に乗り、パソコンに向かって仕事をしている。一方で、あえてクルマで移動することもある。片道2時間半から3時間ほどのその時間を、どのように過ごすのか。
「ポッドキャストを聞くために東京への移動をクルマにするときとかもあります。僕がポッドキャストを聴くのはほぼクルマの中ですね。どんなに短い時間でも聴いています。好きで聴いている番組もいっぱいあるから聴き切れないんだけど」

ポッドキャストの番組を持つ人と東京で会う前には、その人の番組を聴く。内沼さんにとってクルマは、移動手段であると同時に、ひとつの拠点でもあるのだろう。ひとりになり、視野を広げるための時間がそこにはある。
「むしろ移動したほうがアイデアも湧きやすいというか。僕は今東京から離れていることが全く苦じゃなくて、離れているからこそ客観的に東京の仕事を捉えられるし、考えが深められていると思います。東京に行くと疲れるなとは感じるようになったけれど、かといって週7日御代田にいるのがベストかというと、それはそれで凝り固まりそうだなと」
往復することでバランスを取る内沼さんが、次に期待を寄せるのは自動運転だ。アメリカや中国では実用化の動きが加速している。内沼さんは中国を訪れた際、自動運転のタクシーを利用したそうだ。
「まだ実証実験中で、無人のはずがメモを取っている人が乗っていましたけどね。人間なんかよりよっぽど何も見落とさずに走っている感じはありましたよ。運転するのは好きだからいいんですけど、手放ししてもいいのはいいじゃないですか。全部辞めたいわけじゃないけれど」
クルマにさらなる機能を求めながらも、制限によって生まれる自由は持ち続けたいということだろうか。移動も、仕事も、住む場所も、内沼さんは誰かに委ねることなく、自らハンドルを握り走り続けている。

時間割のグラフ
#09内沼晋太郎
age46
出身地
山形県
現所在地
長野県・御代田町
職業/肩書き
ブック・コーディネーター / ポッドキャスター
SNS/HP
IG:@numabooks
X:@numabooks
現在乗っているクルマ
volkswagen Golf R (※取材後、Volvo XC40に乗り換え)
日々の移動手段を教えてください
クルマ、新幹線
移動時間に何をしていますか?
AIの音声会話モードでアイデアを整理したり、好きなポッドキャスト番組を聴いています
移動時間にどんなことを考えますか?
現在進行中の企画や次の企画の構想を練る
移動する時間は自分にとってどんな時間ですか?
考える時間
あなたにとって移動とは
視野を広げる行為
Photo by Keita Noguchi Text & Edit by Naonori Kato Produce by Ryo Muramatsu