Local2026.11.04NEW

#02 ひとつの住まい、ふたつの街。甲府を足場に距離をつなぐ by 清水柊子

都市との距離、地域の人々との距離。近ければ近いほどいいわけでも、遠ければ関わりが薄くなるわけでもない。土地に暮らす人々の移動と日常を訪ねるLOCAL。第2弾の舞台は甲府エリア、テーマは「ちょうどいい距離」だ。02に登場するのは、Webや映像制作の仕事に携わりながら、〈文化沼〉の店長を務める清水柊子さん。帰郷して出会った街の面白さに惹かれ、手伝うことから、つくり手たちの魅力を伝える側へ。東京とのつながりも、街で偶然会う人との立ち話も、大切にしている。清水さんの働き方と人付き合いから、ひとつの街に根を下ろしながら、関わりを広げていく暮らしを見つめる。

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「移動が育む暮らし 長野県・御代田編」記事一覧

帰ってきた街で、「面白い」の輪に加わる

2拠点生活というと、都市と地方、2つの場所に住まいを持ち、行き来する暮らしを思い浮かべる人が多いかもしれない。けれど、清水柊子さんの2拠点は、少し違う形をしている。現在の住まいはひとつ、生まれ育った甲府だけだ。それでも彼女は、片道2時間かけて東京へ通い、仕事の軸足を2つの街に置いている。住む場所ではなく、働く場所と関わる場所を2つ持つ。それもまた、ひとつの2拠点生活のかたちだ。

Webや映像制作を中心としたクリエイティブ業務を行う〈VISUAL AND ECHO JAPAN(VEJ)〉の甲府オフィスで働きながら、VEJが運営するスペース〈文化沼〉の店長を務める清水柊子さん。甲府で生まれ、大学進学で上京しアパレル企業に就職。都内のファッションビルブランドで働いた。甲府に戻ったのは2014年、26歳のとき。きっかけは、当時ルームシェアをしていた友人の一言だった。

このまま東京に住み続ければ、家族に会えなくなってしまうかもしれない。震災から4年ほどが経った頃のことだ。それまで家族や故郷の将来を、真剣に考えたことはなかったという。東京でよく一緒に遊んでいた鎌倉に住む同級生にも声をかけ、女性3人で甲府に帰ることを決めた。現在も月に一度はみんなで集まり遊ぶ仲だ。あのとき迷いながら決めた帰郷を、今はどう思っているのだろう。

「甲府に対して強い気持ちがあったわけでも、いつか必ず帰ろうと思っていたわけでもないです。でも、今は上京前よりも甲府愛がかなり強いと思います」

甲府に帰ったタイミングで、変わろうとする街を、面白いことを始める同世代の姿を見た。清水さんが離れていた間、甲府の街も静かに変わっていた。高校時代に通った中心街の商業施設は姿を消し、治安の良くない時期もあった。でも10年ほど前から、居酒屋〈発酵酒場かえるのより道〉、ワインバー〈OASIS〉など、次々と個人経営の店が立ち上がった。街に活気を取り戻そうとする人たちは、やりたいことを口にし合い、力を貸し合う。そんな空気の輪に、清水さんも自然と加わっていった。

「興味があればやってみたいと思う性格で。周りには私のやったことのない魅力的なことをしている人がたくさんいたので、お手伝いをしたいと思うようになりました」

ゲストハウスの立ち上げを手伝い、壁の色を塗ったのも、この頃だ。ちょうど同じ時期、VEJの上司・宮沢さんが北杜市へ移住し、甲府に支社を構えたことで、共通の知り合いであるライターさんを介して、VEJのアルバイトを始めることになった。Web制作の経験もITの知識もなかった。それでも迷わず、飛び込んだ。

応援する人と、される人。そのあいだに場所をつくる

半年後に社員となった清水さんは、ワイナリーや貴金属業など、山梨らしい事業を営む人々と出会っていく。伝統を受け継ぐ事業者、新しい挑戦を模索する事業者。彼らと仕事をするうちに、お客さんが自分で伝えられる以上に、その魅力を伝えていかなければならないという思いが芽生える。VEJの制作に力を貸してくれる山梨の写真家やイラストレーターとも出会い、応援しながら応援される場所を持てないかと考えるようになる。具体的なイメージを決め切らないままオフィスの下の階を借りてしまい、1年ほどかけて構想を練り、2023年6月に文化沼が生まれた。

場をつくった理由はほかにもあった。事業者の多くはコロナ禍以降、ECサイトを立ち上げている。VEJはこれまで小売業をしたことがなかった。クライアントが本当は何に困っていて、何を求めているのか。拠点をつくり、ECサイトもつくり、小売業を始めることで、事業者とより近い視点で向き合えるようになった。


「今のままでももちろんいいけれど、発信すれば価値をわかってもらえることが、きっとある。みなさんは私たちの好きなものでもあるので、みんなで底上げしたいんです」

最近では、さらに認知を広げたいという山梨のワイン組合に声をかけられ、東京からソムリエを招くワインツアーの映像を撮影し、上司の宮沢さんとともにSNS講座まで開催している。街の魅力を知る側だった清水さんは、いつしか、伝える側に回っていた。

東京へは2時間。街では、会えたら立ち話

東京の本社への出張は、月に2、3回。同僚や自分のクルマか、特急あずさ、特急かいじで向かう。上司や後輩と乗り合わせ、仕事の話をしながら過ごす時間も、清水さんにとっては苦にならないという。

一方、甲府の街の中では、自宅から職場まで歩いて15分、自転車なら10分。天気や気分、冬の風の強さで、その日の移動手段を選ぶ。ランチに出れば、夜の仕込みに向かう店主と鉢合わせて立ち話をし、夜に飲みに出れば、気づけば隣の人を巻き込んで大人数になっていることもある。そんな日は、自転車を道端に置いて、歩いて帰る。

「毎日連絡を取り合うわけじゃないけれど、ポッと会って少し話すと、また次の日からがんばろうと思えます。会えたらうれしいけれど、付かず離れず、親密すぎない。その距離感が心地いい」

住む場所を2つに分けなくても、2つの街と関わりを持つことはできる。2つの街の人を結びつけることもできる。清水さんの2拠点生活は、甲府という足場を手放さないまま、東京との距離を離れていると捉えずにつなぐ生き方だ。人との距離、街との距離、東京との距離。彼女はいくつもの「ちょうどいい距離」を持って、いま甲府で生きている。

時間割のグラフ

#02清⽔ 柊⼦

age37

出身地

⼭梨県 甲府市

現所在地

⼭梨県 甲府市

職業/肩書き

Director/⽂化沼店⻑

SNS/HP

IG:@shiucocco

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SUZUKI イグニス

⽇々の移動⼿段を教えてください

クルマ、⾃転⾞、徒歩、電⾞

SUZUKI イグニス

移動時間に何をしていますか?

クルマ移動の時は、⾳楽やラジオ(ポッドキャスト)を聞いています。電⾞移動の時は、読書したりパソコン仕事したり、寝たりしています。

移動時間にどんなことを考えますか?

仕事のこともプライベートのこともいろいろ。毎回きまって、盆地からの⼭々をみて「今⽇も美しい〜」と感動しています

移動する時間は⾃分にとってどん な時間ですか?

普段パソコン仕事のため⽬の前の物事に集中しがちなのですが、移動中はアイデアや思考を巡らせたり、好きな⾳楽をきいたり、ただ景⾊を眺めたりの、ある意味リフレッシュタイム

また特急で出張に⾏くときは、⼤事な休息時間でもあります。(乗り物に揺られて寝るのが意外に好きです)

あなたにとって移動とは

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Photo by Keita Noguchi / Text by Nagi Aitani / Edit by Naonori Kato / Coordination by Sawako Omura / Produce by Ryo Muramatsu